キ/GM/11-20/13
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「ただいま」
島田三佳(10歳)はA.CO.の事務所のドアをくぐった。
「やぁ、お帰り」
中央の応接ソファには七瀬司(18歳)が腰を下ろしていた。来ているとは思わなかったので、三佳は駆け寄り、司の隣に座った。特に理由はない。司の隣にいると、何となく落ち着くのだ。
「遅かったわね。何かあったの?」
阿達史緒(17歳)が尋ねる。
今日は秋葉原にある峰倉という馴染みの薬品卸売店に顔を出していた。そこからだと帰るのに1時間もかからない。けれども三佳は帰るコールを入れてからここに着くまで2時間半もかかってしまった。
「電車の中に忘れ物して、回収するのに手間取ってたんだ」
「忘れ物? 三佳にしては珍しいわね」
「私だって忘れ物くらいするさ。…同じ車両に乗ってた会社員が次の駅に預けておいてくれたんだが、荷物の中身が薬品だった為に不審に思われて、簡単に返してもらえず、わざわざ峰倉さんに連絡して身元証明してもらって、やっと解放されたんだ」
「それは…災難だったね」
隣で司がクスクスと笑う。
三佳は溜め息をついてそれを肯定しようとしたが、やめた。
確かに、今日は色々な出来事と遭遇したけれど。
「…そうでもないさ」
三佳が複雑な表情で笑ったのを、もしかしたら司は声だけで気付いたかもしれない。
「三佳?」
「月曜館、行かないか? 久しぶりに大声だしたら喉がガラガラ。紅茶飲みたい」
月曜館とはすぐ近くにある喫茶店のことだ。三佳たちは既に常連になっていた。
「大声って、…そんなに駅員と揉めてたの?」
史緒が尋ねた。まあ、そんなところ、と三佳は答える。司が立ち上がり、三佳もそれに続く。
「史緒は? 一緒に行く?」
「私は留守番。事務所を空にするわけにはいかないわ」
「じゃ、行ってくる」
「行ってらっしゃい」
そして史緒は仕事に戻り、三佳と司は月曜館へと向かった。
end
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