/GM/お題077

【サボリ決定】

『えっと、もしもし?』
 健太郎声の次に聞こえてきた声は司にとって少し意外だった。
 想像していたよりずっと幼い口調。そういえば年齢は聞いていなかった。どういう意味かと訊かれたら返答に窮するがともかく櫻の連れとしては意外だ。
『はじめまして。ナナセツカサといいます。ノエル・エヴァンズさん?』
『わ、よかった、英語でいいの? ノエルでいーよ。えと、ツカサ?』
『うん。じゃあノエル、そこにいるのは僕の友人で、男のほうはケン、女のほうはショウコだ。突然、声を掛けて馴れ馴れしくしてるみたいだけど、ごめんね、もしかして迷惑をかけてない?』
『ううん! 全然! すごく親切、飴くれたし。もー、ほんと、どうすればいいか判らないときに声をかけてくれてすごく嬉しかった』
『それなら良かった。あと10分くらいで英語を喋れる娘も合流するから、安心してってケンが言ってたよ』
『ありがとー。でも、えと、あの…いいのかな』
『あぁ、そこの2人は極度のお節介でさらに暇を持て余してるだけ、他人の世話を焼くのが好きなんだ。ノエルははぐれた家族…ハル? を、捜してるんだよね、それに付き合いたいんだって。悪い人間じゃないから、よければ付き合わせてやってよ』
『いいよっ、喜んで!』
『今回は家族で日本に?』
『うん。あたしの家族はいつも一緒なの』
『いいね。他には?』
『ううん。家族だけ。いつも3人で、いろんなとこにいくの』
『3人? ノエルとハルと?』
『マーサ!』
『なるほど』
『うん?』
『ねぇ、ハルはこれから捜すとして、マーサは今どうしてるの?』
『たぶん、あたしが抜け出してきちゃったから、ホテルで怒ってると思う』
『心配してるんじゃない? 連絡したほうが』
『うぅ……いいの! 連れ戻されちゃうもん!』
『隠密なんだね』
『そう!』
『そうだ、ハルってどんな人? ええと、容姿とか。これから捜すわけだし』
『えっとね、髪は黒くて、目も黒くて、眼鏡かけてて、背はふつう』
『そっか。すぐに見つかるといいね』
『ありがとう』
『じゃあ、通訳の子がくるまでもう少し待ってて? あ、さっきのハルの特徴ケンに言っておくから、電話、代わってくれる?』
『うん。ほんとにありがとう、ツカサ』
 ツカサ、という単語は発音しづらそうだった。かといって、ナナセも同じくらいの難度だろうし。そういえば蓮家の中で日本語を話さない兄姉の中にはナナと呼ぶ人もいた。
「よー、司。ありがとな」
「お礼はいいよ。その代わり、後で結果報告を聞かせて欲しいな」
「わーった」
「ああ、それと」
「ん?」
「ハルは意外と近くにいるみたいだよ。あまり遠くに行きすぎないほうがいい」
「え、なにそれ。なんか知ってんの?」
「さぁね。それよりもう切るよ。こっちは仕事で電話番中、いつまでも回線占めてるわけにはいかないからね」
 通訳は引き受けたけど、知り得た情報を教えろとまでは言われてない。蘭が来て少し話せばすぐ判ることだが、過剰サービスをするつもりはないし、健太郎にはもう少し働いてもらおう。


END

/GM/お題077