027. キラキラヒカル (GrandMap/蘭)



 たった一輪の花が。


 まっすぐで、眩しくて。鮮やかで。

 そうじゃない自分がみじめで。

 思わず目を逸らした。
 正面を向いて大きく咲く花を正視するのは難しかった。


 けれどやっぱり、高潔とさえ思える姿は美しく、瑞々しい花弁の儚さは胸を打つ。
 きれい。
 心からそう思えることで、自分が洗われる気がした。


「えっ、どうして泣くの?」
 と、花をくれた男の子が慌てて声をかけてくる。


 ずっと。
 この花のように、まっすぐ、笑っていられたらいいのに。




*  *  *




「来週誕生日だろ、なにがいい?」
 と、篤志に訊かれたとき、蘭は即答していた。
「花がいいです!」
 篤志は少し考えたあと、訝しむような表情で返してきた。
「……花束?」
 実は前の篤志の誕生日のとき、蘭は花束を贈っている。そのとき篤志は周囲の目を気にしながら恥ずかしそうに、でもちゃんと受け取ってくれた。そのときのことを思い出したのだろう。
「いいえ」
 蘭は首を振る。
「切り花を一輪。ガーベラがいいです」
 花束を持ち歩かずに済んだからか、篤志はほっとしたようだ。
「色は?」
「───それは篤志さんが決めて」
 蘭は笑って見せた。




 そして目の前には、可愛らしいレースにくるまれたガーベラが一輪。

 色はあのときと同じもの。

「ありがとうございます」
 嬉しくて、泣き出すのを我慢するために笑った。
 その花を手にして、やっぱり少しのみじめさがあって、でもきれいで、心からそう思えて。
 彼の前で笑うことができた。


 篤志は蘭の耳元で小さく、
「今度は泣くなよ」
 と、言った。






END
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20070618