070. ナミダ (BlueRose/「Kanon」のつづき) 「ごめんね」 いつになく神妙な声で、唐突に謝られた。 「何が」 「圭のこと、黙ってて」 「あぁ、別に謝ることじゃない。俺がただのミーハーか試したんだろ」 そう返してやると、ぱしっとつないだ手をほどかれた。 「違うよ馬鹿!!」 「馬鹿って…おまえな」 振り返ると、小林は目に涙を浮かべ、泣きそうになっている。そういえば、森村久利子───圭の母親…ということはこっちも血縁か───のライブのときこいつは泣いていた。4年も付き合ってて泣き顔を見たのは初めてだった。気の強い女だから。 「圭のことだと泣くんだな、おまえ」 数歩戻って、頭を撫でてやる。するといつになく素直に抱きついてきて、結局泣いた。「人の気も知らないで」まるで恨み言のように呟く。 「そんな…単純なことじゃないの!」 「そうか」 「私だって…圭が歌ってるなんて知らなかったし、ひーちゃんはいないし、森村久利子だなんて知らなかったし、圭の馬鹿は何も言わないし」 「さっぱりわからん」 「後で言う!」 そのまま小林を引きずるように歩き出す。 「それに…、あんたが圭のこと好きって言うから、言いだしにくかったんだよっ」 「圭が好き…って、語弊があるだろそれ。BlueRoseが、だろ」 「同じじゃん」 「全然、違う!」 むきになって否定すると、小林はくすくすと笑う。 「じゃあ、Kanonが好き?」 「言っとくけど、Kanonも男だからな」 「だから、あんたのそれは当てにならないって」 「…」 何も言い返せなかった。 END |