095. 夜明け (BlueRose/希玖)



「おやすみ」
 と、言うのが怖かった。

 残酷な言葉だった。

 一日の別れを どうして口にできる?
 どこまでも続く暗闇に、これから身を沈めるというのに。






「またね」
 はじめて会った日の別れ際。はにかむように笑って、イトコは手を振った。

 それは、とてもやさしい言葉だった。









 ───これは僕を救うかもしれない

 はじめて、自分の音楽を奏でたとき。
 なにかを許されて、なにかを託された。
 冷たい病室、月明かりの中、ひとり。
 でも、淋しくはない。
 ただ熱い。涙がとまらなかった。

(BlueRoseを見つけたよ。おにいちゃん)

 これは僕を救う。
 そして苦しめるものだと、解っていたけれど。

 きっと忘れない。
 こんなにも鮮やかな、冴えた夜を。







END

20060528