/BR/01
≪1/7

 東京都A区─────。

「ねぇ。そろそろじゃない?」
 昼休みの読書中。唐突に、前の席に座る女生徒の声が耳に入ってきた。集中して読んでいたはずの文字を見失い、叶みゆきは溜め息をついて本から目を離した。昼休み終了まで、あと5分。再び本の内容にのめり込むのは無理だろうと見切りをつける。湿った風しか入ってこない窓の外へと視線を移した。
「あ。そーじゃん! あと一週間で夏休みだもん。今年も絶対、くるよね」
「あの人達の歌聴くとさー、夏が来たなぁ、ってカンジしない?」
「するするー。既に風物詩だよー」
 教室に響く無邪気な笑い声。彼女たちの会話は、周囲の大人達が言う程、決して画一的ではないけれど、それらのどの会話とも、みゆきは馴染めないでいる。会話について行けないことに落ち込む程子供ではないし、笑顔を絶やさず聞いていられる程大人でもない。加えて生まれながらの極度の人見知りと内向的性格と口下手と不器用さが拍車をかけて、クラスの誰とも馴染めない高校生活を送っているのだ。
「ね、叶さんも好き? 『B.R.(ビーアール)』」
「……え、な…何? …それ」
 振り返ったかと思うと突然話し掛けられ驚いてしまって、それだけしか返せなかった。
「やだー。毎年、この時期に現れるバンドよー。知らないの?」
「メンバー全員、素性不明っていうのもそそるよね」
「ごめんなさい。…私、そういうのよく知らなくて」
「叶さんはあんまりテレビとか見ないかー」
「え…ええ」
「あ、でも、見かけたら聞いてみなね。絶対、イイからね」
 それだけ言うと、彼女たちは背中を見せて、また違う話題へと会話を進めた。
 なに、叶さんに話かけてるのよー。小さな笑い声が、背中の向こう側から聞こえる。
 ほんの少しの屈辱に耐えることも、もちろん身につけているけれど。
「でも、ほんとに、楽しみだねー。もう3度目の夏かー」
 その言葉につられて、みゆきは窓の外、空を仰いだ。
 スモッグで擦れても青い青い空と、白い入道雲。風はあいかわらず湿っぽいだけで涼しくはないし、日差しも痛い程眩しいけど。
 嫌いじゃない。
(……夏、かー)

≪1/7
/BR/01