キ/BR/02
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7月××(-5)日───。
都内某所。
noa音楽企画本社三階、第34会議室。
『極秘会議中』。
広さは十二畳程。その中央には円を描く机と椅子、ホワイトボードがある。色調は淡いグレーで統一されており、机・椅子は黒。モダンではあるがある種の硬質感が残るのは設計者の狙いであるとか。
会議室として決して広いとは言えない。それでも今その狭さを感じさせないのは…いや、逆に室内を広く感じさせるのは、行われている会議の出席者が二人しかいないからだろう。円を描く机の端に、二人は並んで座り、机の上に書類を広げていた。
noa音楽企画社長、安納鼎。
そしてもう一人は叶みゆき。
安納鼎は現在四十七歳。ダークブラウンの背広をぴっちりと着こなして風格を漂わせている。十年程前に立ち上げた芸能プロダクションはそこそこに業績を伸ばし、今は大手の一つとして、業界に幅を利かせていた。タレントの育成、イベント企画、音楽CD企画等、どの分野でも斬新なアイディアをもってプロジェクトを成功させている。優秀なスタッフを揃え、そしてかなりシビアなやり手であることでも有名だった。
一線を退き、既に半隠居に入っている彼だが、年に一度、彼自身が直接手掛けるプロジェクトがあった。
「B.R.プロジェクト」。そう呼ばれている。しかしそう呼ばれてはいても、プロジェクト自体を知る者は殆どいない。事務所のスタッフさえも知らない。その特異さ故にプロジェクトは極少数の関係者にしか知らされておらず、さらにこのプロジェクトは社長自ら手を付け、かなりワンマンで行われていることも事実だった。
だから現在この会議に参加しているのは二人──。それが定員で、全員なのである。
「……叶」
不機嫌さを声色に含めて、安納は呟いた。
「あ、はいっ。あの、え…っと、ではもう一度、説明致します」
叶みゆき。あまり手を入れてないような無造作なロングヘアに眼鏡面、これでも現役女子高生で十七歳。その、あまり要領の得ない喋り方は、少なからず安納の癇に障ったが、特にそれを注意するようなことはなかった。それはある意味諦めに近い。注意して治るものなら三年前に治っているだろう。
「B.R.のサードシングルの曲目は、…あ、この三曲です。オン・エアは八月十日頃。CDリリース予定日は八月二十五日です。例年通りカラオケは入れません。…えっと、スタジオのほうの都合がよろしければ、来週からにも撮り始めたいと思います」
「……そうだな。スタジオと、レコード会社のほうへは私が手を回しておく。CDジャケットのことも、そろそろ決定しなければならないだろう。オン・エアが十日だとすると…、宣伝や広告のほうも迅速に行動しなければなるまい」
「………」
「まぁいい。雑務はこちらに任せて、叶は早速メンバー招集にかかってくれ。以上だ」
「わ…わかりました」
勢いに押されたかたちで、みゆきは頷いた。安納はそのまま何も言わずに立ち上がり、何の挨拶もせずに部屋から出ていった。
みゆきはぷつと緊張の糸が途切れ、書類が散乱している机に伏し、大きな 大きな溜め息をついた。
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