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 東京都A区。十二月二日、午前四時二三分─────。

 はじめ、叶みゆきはそれが何の音か分からなかった。
 しつこい程、鳴り続けるベル。
 毎朝耳にする目覚まし時計の音とは違うし、廊下にある家の電話の音とも違う。
 いつもと同じシーツの上で目を開ける。
(………)
 部屋は真っ暗。朝でないことは確かだ。
 起ききらない頭は回転を始めてくれない。取るべき行動を考えられない。
 音は鳴り続けている。
 どうやら自分の部屋の中から音がしているらしい。もう何分経っただろう。
 実際は1分も無かっただろうが、みゆきには数十分にも感じられた。
(……早く止めないと、お父さん達、起きてくるなぁ…)
 そんな風に考えられるくらいには、頭が動き出したということだろうか。
 音は鳴り続けている。
(…ああ、そうか)
 携帯電話が鳴ってる。
 ようやく、それを理解した。
 みゆきの携帯電話はあまり鳴ることがない。
 とくに冬は。というより夏以外には。
 『仕事用』にと、持たせられているものだった。
「……誰?」
 目をこすりながら布団をはぐ。
「寒…っ」
 体が震えた。季節は冬。しかも朝方。当然の反応である。
 みゆきは机の上の点滅する光に手を伸ばした。
「はい、………もしもし?」
「安納だ」
 間を置かずに答えが返ってきた。
「………希玖?」
 間をあけても深く考えずにみゆきは尋ねる。
「違う」
「…えっ、あっ! ……おじさんっ?」
 眠気がいっぺんに吹っ飛んだ。電話の相手はnoa音楽企画事務所の社長、安納鼎だ。
 慌てて混乱し続いているみゆきを無視して、安納は耳を疑うようなこと言った。
「仕事だ。至急、事務所まで来い。二時間以内にだ、わかったな」
「え……?」
 部屋の時計を見ると、時刻は四時半。勿論、新聞も来てないような早朝である。
「仕事……って、『B.R.』の? だって……。…何かあったんですか?」
「朝のニュースには出る」
「…ニュース?」
「とにかく早く来い。連中を集めなきゃならん」
「連中って……」
 オウム返しになってしまうのは、眠りから覚めきってないせいだけじゃない。安納は一体何を言っているのか。
 みゆきが事態を把握するのには三十分の時間が必要だった。

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