/BR/圭
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「うるぁっしゃぁあ! 今夜のゲストは〜、なんとッ、BlueRoseの皆さんでぇ〜す!」
 癖のあるハスキーな高い声がスピーカーから響く。それは店頭や車の中、山辺でも海辺でも、歩きながらでも部屋の中ででも聴くことができたはずだ。電波受信機(ラジオ)の周波数を合わせてさえいれば。
 時間は夜11時。ラジオはここからがゴールデンタイム。
 毎回ゲストを招いて突っ込んだトークを繰り広げるこの番組は、今夜50回目を迎えた。「The 50th night Special Live」と題して時間拡大の生放送、スペシャル企画満載、豪華なゲストを迎えた。
「もー、今回はね? ウチのスタッフちょ〜頑張ったッスよ。絶対、BlueRose呼ぶっつって2ヶ月前から交渉しててね? ど〜にか、ど〜にか、こうして来ていただくことができたの! スタッフの涙ぐましい努力に報いるタメに、それからこれを聴いてくれている皆のタメに、この1時間でBlueRoseの知られざる一面をふか〜く暴いちゃうのがアタシ・早坂(はやさか)の使命だよね? 楽しみにしててください!」
 中央のマイクの前で女性DJは拳を振り上げつつ喋った。ニットの帽子にトレーナーという服装の彼女の声は自然熱を帯び、それはブース外にいるスタッフにも届く。
 もちろん、向かいに座る5人───BlueRoseにも。
 BlueRoseは今年の5月にデビューしたJ-POPバンドで、一枚目のシングルは3ヶ月経った今でもチャートインしており、2枚目は4週目に入っても3位にランキングされていた。デビュー以前にも世間を騒がせていたが、デビュー後もメンバーの意外な経歴が明らかになったりと何かと話題の絶えないバンドである。今最もアクティビティの高い芸能人と言っても過言では無いだろう。

「BlueRoseって歌番組にしか出ないもんね〜。トーク系のお仕事は珍しいんじゃないかな。まずはお約束で端から自己紹介、ヨロシクぅ!」
 早坂のシャウトの後、少し間があって、
「BlueRoseのキーボード担当、山田祐輔です」
「ギター、中野浩太」
「小林圭でーす」
「ベースの片桐実也子でっす」
「ドラム、長壁知巳です」
「ありがとーう。…って、な〜んか、皆、落ち着いてない? コレ生番組だけど緊張とかなぁい?」
「俺は歌うよりかは緊張してるな」
「嘘でしょ。圭が緊張してるところなんて見たことないですよ」
「そうそう。この中で一番図太いな、圭は」
「浩太は変なところで繊細すぎるんだよ。祐輔は鉄骨の心臓だし」
「おいおいBlueRose、いきなりケンカかぁ?」
「いつものことですから」
「でも圭ちゃん以外はこういうトコであんまり喋ったことないよね」
「テレビだと大体、ケイくんがトーク担当じゃない?」
「こいつが一番喋りうまいんですよ」
「そーそー、一番クチがうまい」
「クチだけじゃなくて歌も巧いんだ」
「その生意気な態度で釣りがくるな」
「…あの、ケイくんとコータくんがなんか睨み合っちゃってるんだけど、これもいつものことなの?」
「はい」「ええ」「うん」
「私たち、ラジオのお仕事は初めてだけど、事務所の社長は“普段通りに喋ってくればいいからとりあえず行ってこい”、って」
「普段通り喋られたらフォローしきれないから、頼むからやめろ」
「もう遅いと思いませんか」

「リスナーからメールが来てるよ〜ん。え〜と、“BlueRoseの皆さんは休日はどんなことしてるんですか?”だって。っていうか、休みあんのかなぁ、どうよ? ん〜と、じゃあ、ケイくん」
「あ、この間の休み、5人でカラオケに行った」
「あっはは、カラオケ〜?」
「ミヤが行ったことないって言うから。そろって変装して。な?」
「うん、すごく楽しかった。また行きたい」
「え? ミヤさん、カラオケ初体験? 珍しくない? なに歌ったの?」
「えっと、みんなのうたとか童謡」「ほんと珍しいな、それ」「あと圭ちゃんの歌も」
「わお。え? じゃ、そのケイくんは?」
「堀外タカオと山村シンジ」
「しぶっ! えぇええ? ケイくんの趣味?」
「そーそー、こいつプライベートではこんなんばっか」
「他人の部屋からそのCD奪ってたヤツの台詞かよ、浩太」
「あははは。じゃ、コータくんも結局聴いたんだ? 堀外タカオと山村シンジ」
「当然」
「浩太はね、ほんと、節操無い。何でもかんでもあるものは聴くってかんじ」
「あー、じゃあ、コータくんは一番レコード持ちだったりする?」
「うーん…、この中じゃそうかな」
「この中?」
「ウチのスタッフにも一人…いや二人? 浩太に似たコレクターがいるから」

「もひとつ質問いこっか。“ケイはいつから歌手になりたいと思ってたの?”だって」
「え? 俺?」
「そう」
「…わかんね、いつだろ? 結構、前」
「『B.R.』がデビューしたときって、ケイくんは13歳だったんだよね。それより前ってことでしょ?」
「あ、もっと全然、前。小学校上がるより前だったし」
「え? うそぉ」
「あー、確かに圭はそんな感じだった」
「そうそう。真っ直ぐここまできたーってカンジ」
「初対面のとき、凄い覚悟を決めてる子供だなって思いましたね」
「そうそう、この中で一番プロ意識高いのは、絶対、俺だし」
「んんん? どういうこと? ケイくん」
「浩太とミヤは遊びの延長だし…あ、良い意味だから。祐輔は例えば彼女に何かあったら仕事放りだしそうだし、長さんは食っていけるなら別にこの仕事でなくても構わなそうだし」
「…ん〜、…それは否定できない!」
「俺らの評判落とすようなこと言うなよ」
「いや、言い得てると思いますよ」
「でもはっきり言われると腹立つ。…確かに間違ってないけど」
「じゃあ、そのケイくん。歌手になりたいって夢を持ってるリスナーに何かアドバイスしてあげてよ」
「あー、それなら、誰かを目標にするのがいーんじゃない? 目標っていうか目的があれば、あとは努力と根性と運だけだからさ」

「すんません、CM前にいっこ告知するね。えーと? …うおぉー! 森村久利子(もりむらくりこ)の緊急来日ライブが9月にあるって! チケットの先行予約、来月開始! って、これはマジで貴重! ホントに。森村さんはほとんど表に出てこないよね、本拠地はロンドンで日本にも滅多に帰ってこない! これは行かないと損だ〜っ! と、言うわけで先行予約はAN音響および各チケットセンターまで! 番組のHPにも情報入れとくから、みんな見にきてね!」

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