キ/BR/圭
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「CM入りましたー。1分間でーす」
ディレクターの声がブース内に響く。早坂は誰よりも早く席を立つと、本日のゲスト5人に向かって頭を下げた。
「BlueRoseの皆さん、お疲れ様!」
オンエアのチャネルは今はマイクから離れてCM用ディスクへ移っている。声量を気にせず早坂は大声で言った。
BlueRoseの5人もそれぞれ立ち上がり挨拶を返す。
「お疲れ様です」
「ありがとうございました」
「お先に失礼します」
調整室にいるスタッフにも会釈を残す。そしてスタッフも笑顔で手を振り返した。
早坂は今日、初めてBlueRoseと対面した。何かと噂の彼らと会うことを楽しみにしていて、今日の番組のゲスト招聘にも精力的に協力したのだ。
ラジオDJという職業の早坂は業界内ではまだ表舞台にいるほうだ。その部類に比べ、番組プロデューサーや脚本家、カメラマン、照明音響、TKという裏方スタッフの間では業界内の噂が本当によく伝わる。
「あいつら、ほんっとに仲良いよ」
と、BlueRoseの噂を耳にした。噂を広めたのは主に歌番組の裏方スタッフたちだ。
グループやバンド、芸人のコンビたちがプライベートでは口も利かない、というのは実は珍しくない。仕事は仕事と割り切る、仕事以外は距離を置く、そういう関係も大切だろう。ただしそれを大衆に見せないことが暗黙のルールだ。夢を売り物にしている以上、客を興ざめさせてはいけない。
BlueRoseもご多分に漏れないんじゃない? と思っていたところ前述のような噂を耳にした。今日、実際に会って確かめるのことが早坂はずっと楽しみにしていた。
「今夜は楽しかった! また来てね」
「またお誘いくださ〜い」
紅一点のミヤコが手を振り無邪気な笑顔を見せた。
と、そのとき。
ぱたん。
「え?」
重すぎも軽すぎもしない音に振り返ると、
「圭…っ!」
ケイがテーブルの上に突っ伏していた。その顔は汗を滲ませ、苦しそうに見える。
「え? ケイくん?」
早坂が声をあげるのとほぼ同時に、コータがケイの上体を持ち上げ、肩を支えた。
「だめだ、完全にダウンしてる」
と、コータが呆れたように溜め息を吐いた。
続いてユウスケが、
「公言した通り、今日の仕事は保たせたわけですか」
「大したヤツだよ。実也子、マネージャー呼んでこい」
「わかった!」
いち早く、ミヤコはブースから飛び出していった。
「小林くん、どうかしたのか?」
早坂と同じ心持ちのスタッフが声をかける。
「お騒がせしてすみません」
と、ユウスケ。
事情を説明してくれたのはトモのほうだった。
「今朝から熱があって体調不良だったんだけど、本人が今日の仕事はこなすって聞かなくて」
「えっ、ケイくん、病気だったの?」
早坂が叫ぶと、それが他のスタッフにも飛び火した。
「は? さっきまで元気よく喋ってたのに」
「病院行かなくていいの?」
その少しの騒ぎにトモとユウスケは困ったように笑った。
「遅かれ早かれダウンするだろうとは思ってたから」
「それより、早坂さん達はまだ番組あるでしょ、心配しないでください」
心配が煩わしいようにも聞こえたが、それ以上にまだ仕事中である早坂達を思いやっての台詞だった。
「じゃ、こいつ、連れてくぜ」
コータがケイの肩をかつぐ。
「お先に失礼します」
トモがそれを手伝い、3人+1人はブースからそそくさと出て行った。
「………」
早坂と他スタッフはしばらくポカーンとその後を目で追ってしまった。我に返ったのは、
「20秒前でーす」
というスピーカーからの声のおかげだった。
その合図とともに、一時固まっていたスタッフたちも動き出す。途端にブース内が慌ただしくなった。
「仕事終わったとたん倒れるなんて、いい根性してんなぁ」
「早坂、さっきのケイのこと言うなよ」
「わかってる! 馬鹿にしないでよ」
“一番プロ意識高いのは、絶対、俺”と公言したケイの、そして倒れるくらいの熱があるのにしっかり仕事を終わらせた彼のプライドを傷つけるようなこと、するわけない。
「CM開け、10秒前でーす」
そして今夜の早坂の仕事はもう少し続くのだ。
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キ/BR/圭