/BR/圭
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「こんばんわ〜、早坂みことです…。…あぁぁああ、いやいやいや、こんな大人し〜く始まったけれど、間違いなく早坂ですよ〜、間違ってないですよ〜、チャンネル変えないでくださ〜い。…ふぅ、ごめんねぇ? 今日はちょっと、スタッフ含めアタシもちょっと感激…いや感動しちゃってるの、しょっぱなから。それは今日のゲストさんのせいなんだけどぉ…あっ! 今、この番組を聴いてないヒトいたら、すぐ聴くように言って。ホラホラ、急ぐ急ぐ〜。聴かないとソンだよ〜。…いいかな? ゲストさん紹介しちゃうよ? じゃ、いきまっす! 本日のゲストは〜っ、森村久利子さんでーっす!!!」
 ラジオからやかましいくらいのハイテンションな声が流れた。
「こんばんは、森村久利子です」
「……すっっっごい、キレイな声ですよね〜。いや、ご本人もお綺麗なんですけど。…あ、さっきね? アタシとスタッフ、ポカーンと放心しちゃったくらい森村さんの声に感激しちゃったの!」
「ありがとうございます。本日は宜しくお願いします」
「こちらこそ! お願いします! …えっと、もしかしたら知らない人もいるかもしれないので、ちょこっとばかし説明させてもらいますね。森村さんは、現在ロンドンを拠点としてご活躍されているアーティストです…あ、これ、今流れてる曲ね。曲は知ってるーって人も多いんじゃないかな。森村さんは、あんまし顔を出さないですよね、レコードジャケットもロングだし、テレビにも出ませんよね」
「そうですね。ラジオもこれが初めてじゃないかしら」
「わお! 今夜は世界中のモリムラファンが羨ましがるプログラムだぁ、みんなっ、ココロして聞けぃ。───で、今回は何で日本に来ているかというと、コンサートがあるんですよね」
「ええ、来週から」
「森村さん、コンサートもそんなにしませんよね」
「そうですね。私の楽曲は基本的に重ね撮りが多くて…生オケじゃできないんです。そういうわけでライブという形はとらないようにしていたんですが、今回はアコースティックに編曲して、私が日本で演りたいって駄々こねて」
「あはは、駄々こねたんですか」
「駄々こねたんですよ。で、PAとバンドメンバーをごっそり連れてきてしまいました」
「そうそう! プロデューサーのデニス・フィーロービッシャーも来日してるんですよね」
「ええ。駄々こねても彼だけは落とせなかったの。最後に泣き落とし。ふふふ。彼らに是非紹介したい人がこっちにいるから私も必死でした」
「おっとぉ? だれだれ?」
「あ、予告させていただいていいかしら? コンサート初日にビッグゲストを紹介する予定です。と言っても、本人は絶対嫌がるから、その人の事務所にしか話を通してないんですけど」
「え? 日本のアーティスト?」
「まだヒミツ、大騒ぎになっちゃうから」
「ええぇ〜? 最終日のチケット買っちゃったじゃないですか!」
「ありがとうございます、ごめんなさい」
「みんな聞いた〜? コンサート初日はビッグゲストを招いているらしいぞぉ! ずるい! そのゲストが誰なのかは、その日のうちにネットで判るかな? チェキラ〜!」




「…誰だ、ゲストって」
 移動中の車の中、後部座席で居眠りをしていたはずの圭は不機嫌そうな声で言った。
「あれ? 起きてたんですか?」
「お母さん出てるよって、今、起こそうとしてたのに」
 5人と、みゆき、それに運転をしているマネージャーを乗せてバンは夜の街中を走っている。時間はそろそろ日付を超えそうだが次の仕事への移動中だった。
「起きてたよ、さっきから」
 続けて機嫌が悪そうに眠い目を細めた。
 フィーロービッシャーは見たいが、ビッグゲストとやらをとても嬉しそうに語る母に圭は面白くない。
(母さんと親しいアーティストが日本にいるなんて聞いてないぞ)
「あの、初日のゲストって…それって」と、みゆきが助手席から振り返るのと、
「決まってるじゃない」と、実也子が詰め寄るのと、
 みゆきの口を浩太が押さえるのと、実也子の口を知巳が押さえるのはほとんど同時だった。
 もがもが、とみゆきと実也子は口を塞がれたことに抗議する。
「おまえは〜」
 こちらもほぼ同時に浩太と知巳が声にする。
「うちの女性陣はデリカシーに欠けますね」
 と祐輔は呆れる。
「なんだよ?」
 圭はわけがわからず祐輔に尋ねた。
「何にせよ、コンサートは来週ですよ。全員、初日のアリーナに招待されてるんですから、嫌でも当日には分かるでしょ」
 祐輔の回答に圭は釈然としない。
「おい、そろそろテレビ局に着くぞ、降りる準備しろ」
 知巳の一声で圭のスイッチが切り替わる。
「うっしゃ。行くぜ」


 そして今日もBlueRoseの歌が街に流れるのだった。

end

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