キ/BR/Lの歌
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そのライブの最中、どうしようもなく泣けてきて、私は声を殺す努力をしなければならなかった。
薄暗い客席で、本当は顔を伏せて大声で泣きたかったけど許されるはずもなく。それに目を逸らすこともできなくて、ステージを見つめたまま両手で口を押さえて、馬鹿みたいに私は泣いた。
込み上げる想いの名は判らない。ただ、
(よかったね───)
それだけの気持ちで胸がいっぱいになる。
「おい、どうした」
隣の相方が慌てたように覗き込んでくる。私は涙を流し続けている顔で、にかっと豪快に笑ってみせた。
「なんでもないよ」
「なんでもないって、おまえ」
「うっさい。ちゃんと聴いてろ」
無理矢理ステージのほうを向かせる。
眩しい光を放つ場所には、ふたりの男女が立っていた。そして…。
また、涙が込み上げる。
(よかったね。ホントに。…よかった、よかったね───…)
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キ/BR/Lの歌