/BR/Kanon
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赤い赤い西へ走っていく雲に
黒さえ ついていったから
君は白い壁の向こうへ
僕だけ 青い空を夢見た



 外へ出ると夕暮れ時だった。秋らしい赤い空が広がっている。ふと、BlueRoseの歌の一節を思い出して苦笑した。なんだかんだ言っても、やはりBlueRoseの歌が好きなんだろな、俺は。
 ブーツを履くなのに手間取っている小林(香)を待つ。先に外に出て門柱に背をかけると、そこに「小林」と書かれた表札を見つけた。いや、ここへ来る度に見ていたはずのものだが。
 小林香子と小林圭の関連については少しも、想像さえしなかった。よくある苗字だし。芸能人なんて所詮、メディアの中の存在だし。実際に会ってみれば、意外とフツーで。まぁ、それを芸能人一般に当てはめるのはどうかと思うが。
「Kanonは孤独だ、ってやつ?」
 やっと外に出てきた小林が言う。
「ん?」
 とりあえず時間が迫っているので、駐車場に向かって歩き出した。少し遅れて小林がついてくる。
「圭に言いかけてたでしょ? さっき」
「…あぁ。そうだな。やっぱ今でも、俺が受け取るKanonの歌は“淋しい”って言ってるように聴こえるよ。それと」
「それと?」
「世界はきれいだって、言ってる」
「…なにそれ」
 おそらく茶化そうとしただろう小林は、俺の笑わない顔を見て、そう言うに留めた。いい判断だ。
 手を差し伸べると小林は珍しく素直にそれを取った。駐車場まではあと2ブロック。並んで歩くために歩幅を合わせてやる。
 Kanonは独りだ。孤独を感じてる。でもそれ以上に己を囲む世界が愛しい、それは歌詞の端々から感じられる。その美しさに慰められているのだろう。
 この、赤い空と町と、流れていく雲を、どこかで眺めているのだろう。
「でも、ま、今はそれほど淋しいってわけじゃないかもな」
「どうして?」
 小さく呟いた俺の言葉を耳ざとく拾って、小林は俺を見上げる。それに視線で答えてやって、
「圭たちがいるからさ」
 背後に目をやると、夜の空が迫ってきていた。目眩を覚えるようなコントラスト。
 きっとKanonも、この空を見上げているだろう。


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