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部活は結局続けることにした。利用しているようで後ろめたさを感じなくもないが、そのほうが情報源として何かと都合がいいからだ。
心優しい部長には申し訳ないが、木崎健太郎はこれから幽霊部員となる。
(まぁ、こっちのほうが面白いからだけどさ)
面白い要素はいくつかあるけれど。
“仕事”と呼べるものも既にいくつかこなしていた。早い話、健太郎が趣味でやっていることが、そのまま報酬になるのだ。これ程おいしい話もないだろう。
パソコンと呼ばれる箱を操作して、外の情報を得る。簡単に思えるがなかなか熟練が要求される仕事だった。数十年前までは形の無いものに金を払うなど、考えられなかった。しかし現代ではサービスとも全く違う、情報が金になる時代なのだ。
そう考えると、阿達史緒が所属の組合の意向を無視して、木崎健太郎を引き抜いたのは、なかなか的確な判断だったと思われる。
「おーっす、司ぁ」
駅から事務所に向かう途中、白い杖をついて歩く七瀬司を発見し、健太郎は小走りで追い付いた。
近付く足音で既に気付いていたのか、司は特に反応を示さずにゆっくりと振り返る。
「やあ。学校が終わる時間にしては少し早いようだけど」
「六限サボり。つまんない授業だからさ」
隣に並ぶと、司のほうがわずかに背が低い。健太郎は学制服の上に学校指定のコート、司には見えないが学校帰りであることは一目瞭然だ。事務所のすぐ近くに住む司は、セーターに無造作にひっかけた白いダッフルコート。すぐ屋内に入るのだから、防寒に対してあまり重装備ではない。一見、品の良い坊っちゃんのようだが、その少し歪んだ和やかな性格を、健太郎は思い知らされていた。
「ケンの成績は知らないけど、卒業できる程度には授業に出たほうがいいんじゃないか?」
含み笑いとともに司が言った。心配しているわけではない。完全に面白がっている節が見えるのが、彼の性格の複雑なところなのだ。
「ちゃんと計算してるよ。手抜かりはないはずだ」
「あははは」
「そーいや司って学校とか行ってないのか? 確かそういう歳なんだよな」
「そう、祥子と同い年。高校は行ってないよ・・・昔、盲学校に通ってた時もあったけど」
嫌になってすぐやめたよ、と司は明るく言う。そして続けた。
「それを言うなら、史緒なんかケンと同じはずだけどね」
「あっ!」
健太郎は大袈裟に驚いた。今まで全く念頭になかったことらしい。
「そういえばそうかっ・・・でも、史緒の学校生活なんて、とてもじゃないけど想像できない」
遠慮の無い健太郎の意見に、司は思わず吹き出した。
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