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 A.co.所員・関谷篤志。1999年現在21歳。東京都港区浜松町に一人暮らし。


 時間は午後10時を回ったところだった。
 仕事の打ち合わせの後、雑談をしていたらこんな時間になってしまった。早く家に帰っても、特にやることもないので、それはそれで構わない。寒いせいもあり、自然と早足になる。篤志はジャンパーのポケットに両手を突っ込んで、帰路を急いだ。
 事務所から十分。自宅であるアパートに到着する。
(明日は9時までに事務所に入って、それから・・・)
 そんなことを考えながら、鍵を取り出しドアノブの鍵穴に差し込む。手がかじかんでうまくいかない。
 数十秒かかってようやくドアを開けた。一番手近な照明のスイッチを手探りで押し、エアコンのリモコンを探す。
 その時、篤志は卓上の電話が赤く点滅しているのを見た。不審げに眉をしかめる。
(・・・留守電?)
 篤志をはじめ、A.co.の面々は皆、携帯電話を持っている。まあ、一人だけ例外もいるがそれは問題ではない。
 にもかかわらず、携帯電話に直接かけずに、わざわざ留守番電話に入れておくとは。
 急用ではない。悪い報せとも違う。勧誘、宣伝、間違い電話。きまぐれな旧友、急ぎではないが連絡を取りたい誰か。・・・少なくとも、あのメンバー達ではない。
 それとも、篤志がいつも一緒にいる人達の前で、篤志がこのメッセージへの受け答えをすることがないよう、気をつかってくれた人。
 深く考えることはない。一耳瞭然である。
(まあ、誰からか検討はつくけど・・・)
 上着を脱ぎながら溜め息を一つ、苦笑しつつも嬉しそうに、篤志は再生ボタンを押した。

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