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 吸いかけの煙草が宙を舞った。


 彼の言葉は途切れ、上体が後ろに傾く。
 咄嗟に差し伸べたこの手は届かなかった。
 凍えるような冬の日。
 彼の後ろには切り立った崖。そして黒い海。
 風は陸から吹いていた。

 右手が空を切った。
 無意識のうちに伸ばした右手。
 届かなかった。
 それは彼を助けるためのものだった?
 それとも。

 あの瞬間、指先がわずかに触れたのを覚えている。

 彼に触れたのは、それが初めてだった。

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