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「本当にいいの? 蘭」
 帰りがけ。
 振り返り、少し悩んでから、史緒は口にした。
 単語が本当に少ない台詞だったが、蘭には伝わった。蘭は頷いた。
「ええ。何か不都合あります?」
「だって、私は蘭を利用しようとしてるのよ?」
 史緒の台詞に、蘭は笑ってしまった。史緒は真剣な顔で言ったけど、だってやっぱり、おかしかったから。
 きっと史緒は、蘭を呼び寄せる手紙を書くのに何日も悩んだのだろう。自分の都合のためだけに、古くからの友人を祖国から離れさせてしまうことに。
 史緒がそんな葛藤に苦しんだことは、容易に想像できてしまう。あまりにも簡単すぎてつまらないくらいだ。
 蘭は日本へ行くことを決めた。史緒の近くに居ることは昔から望んでいたことだったし、そこには友人の七瀬司と島田三佳と、大好きな関谷篤志がいる。そして史緒が気に入っているという三高祥子にも、蘭は興味があった。
「蘭? 聞いてる?」
 史緒が顔を覗き込んでくる。
 蘭は歯を見せて笑った。
「───…ありがとう史緒さん。約束を覚えていてくれて」

 呼んでくれてありがとう。
 あたしを必要としてくれてありがとう。
 覚えていてくれてありがとう。
 幼い日の、約束を。

end

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