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 遠く。
 ドアが締まる音を聞いた気がした。
 夢かもしれなかった。でも史緒は普段夢など見ない。
 三佳が出て行ったのかも(入ってきた?)、と考えた。空気が動いてちょっと寒い。でも毛布は暖かい。
 ドアの音を聞いて(夢?)からちょうど10分間惰眠を貪って、史緒はソファの上で目を覚ました。
「………?」
 起き上がると背筋が痛かった。ソファの上、無理な姿勢で寝たためだろう。
 史緒は上体を上げただけで、すぐに動き出さなかった。
 見慣れた居間は静かだった。同居人の島田三佳がいる気配はない。
 どうしてこんなところで寝てるんだっけ? ───ああ、昨日は徹夜で、寝たのは朝の4時だった。健太郎に送ってもらったデータの分析結果をまとめ上げたのかその時間。どうにか階段を上ってきて、ここで力尽きたのだった。
 あと10メートルも歩けば自分の部屋なのに居間のソファで寝たのは、朝起きてきた三佳に起こしてもらうためだ。三佳は絶対、「ちゃんと部屋で寝ろ」と怒るに決まってるから。そうしたら朝食を摂って、事務所で書類を見直して発送する予定でいた。
 時計を見ると9時半だった。「うそ」史緒は呟いた。7時には三佳に起こされると予測していたのに。
 思いの外、睡眠時間が摂れたはずなのに史緒の寝覚めは悪かった。頭が重い。(ドアの音を聞いた)右腕が痺れてる。右を下にして寝ていたせいだ。(…三佳?)
(───だめだ、頭が働かない)
 顔洗ってこよう。史緒は立ち上がり、洗面所に向かった。
 ドアが開く音がした。
「…なんだ。起きてたのか」
 同居人である島田三佳が入ってきた。外出用の上着を着ていた。右手にはコンビニの袋がぶら下がっていた。史緒は首を傾げる。
「三佳…。でかけてたの? …さっき、ここにいなかった?」
「───」
 三佳は未だ起ききれていない様子の史緒を見た。ボタンが外されている首元を一瞥してからすぐに視線を移す。
「さぁ、知らないな」
 と、素っ気無く言う。
「それより、そろそろ司と篤志が来るぞ。さっさと着替えて、朝食片づけろ」

つづく

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