キ/GM/31-40/39
≪1/7≫
樹齢1000年を数えるケヤキが切られた日の夜、そこで見たものを、蓮蘭々は生涯口にしなかった。
雲ひとつ無い暗黒の空に月があった。
そこに豊かな枝で空を埋めていたケヤキはもう無い。代わりに、空にぽっかりと穴があいて、月があった。
ただそれだけのことだ。
天に穴があいていた。
そこに月が煌々とあった。
ただそれだけのことなのに。
「───…ぁ」
声が出ないほど、胸が詰まる。
大気は冷えて痛いほど張りつめている。土の冷たさが靴を通して伝わってくる。町は深い眠りに就いて、衣擦れの音さえ拒絶した。
この身体だけが熱い。
叫んでしまいたい。
でもこんな小さな口からでは吐き出せないくらい大きな想い。
「………あぁ」
頭のなかの竹林に、風が通り抜けた。
風景が広がり澄んでいくのがわかる。
いくつかの不安が気分を落ち着かせて、それぞれが顔を上げ、風が抜ける方向を向く。すると追い風に背中を押され、足が軽くなり、歩を踏み出すのがわかった。
指の先までが冴え渡る。
全身が研ぎ澄まされ、目や耳や肌さえも敏感になっていく。
(───あぁ!)
この身に受けた衝撃を口にしなかったのは初めてだった。
(あたしは今、ひとつのことを理解した)
───生まれ変わるってこういうことなんだ───
うまく繋げないけど。
なにも見えてないけど。
まだ、失くしたわけじゃない。
───諦めなくていい。
泣いてる場合じゃない。悼んでる暇はないの。
じっとしてないで、歩き出せばいい。この足で捜しに行けばいい。
新しい風景を、あなたは見せてくれるはず。
このケヤキのように。
その人とは、2度、初めて出逢うことになる、と。
占いのおばあちゃんは言ったんだ。
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