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6. 嘘吐きの謝罪

 これは近い未来の話である。
 蘭はいつかの占い師と邂逅する。

 蘭が関谷篤志の誕生日に花束を渡した、その年の暮れのことである。
 年末年始、蘭は三高祥子を連れて香港へ帰った。仕事の予定も入らなかったし、旅行でも行こうかと話が出ていたので「じゃあ、あたしの家に来ませんか?」と誘った。祥子に家族を紹介したかった。木崎健太郎も誘ってみたがこちらは「…後にしとく」と丁重に断られた。蘭の実家が海外だと少し遅れて思い出した祥子は怖じ気づいたようだが、蘭は強引に話をまとめた。「年が明けたら上海も回りましょう。旧正月まで賑やかで楽しいですよ」
 年末には史緒の誕生日がある。そのプレゼントとメッセージも先渡しして、蘭と祥子は飛行機に乗った。

 そして祥子に香港の町を案内しているとき、蘭は占い師と再会した。
 建物の影、道の端にたむろする浮浪者の中にその人を見つけたとき、蘭は祥子の手を引いて走り出していた。
 その、水晶玉の色を覚えていた。

「あの…っ」
「はい」
「ぇっと…、こんにちはっ」
「はい、こんにちは」
「おばあちゃん」
「はい、お嬢ちゃん」
「あたし、10年くらい前に、あなたにお会いました」
「はい、お会いしまいした」
「お礼が、言いたくて」
「はい、伺いましょう」
「ありがとう。あなたの言葉のおかげで、強くいられました、この気持ちを信じてこられました。本当にありがとう」
「2度、会えた?」
「ええ!」

「後悔してることがあるね」
「…たくさん」
「嘘を吐いた」
「───はい」
「謝ってない」
「はい」
「大丈夫」
「え?」
「それは謝罪することができる。そう、遠くないうちに」



 言葉も事情も解らないはずの祥子が飛び上がってこちらを見た。
 それに応えることはできない。
「……え?」
 そう呟くのがやっとで。


end

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