キ/GM/31-40/39
≪6/7≫
5. 嘘吐きの独白
阿達櫻のかたちばかりの葬儀(遺体は揚がってないという)の後、蓮蘭々は斎場の近辺を歩いていた。
篤志は話しかけられる雰囲気ではなく、司を不慣れな場所へ連れ出すわけにはいかない。史緒は来ていなかった。重苦しい空気のその場にいるのが辛くて、蘭々はひとり外に出た。
(寒い……)
二月の寒さは容赦なく身体を刺した。下を流れる川の音がいっそう寒さを際だたせている。橋の上から川を覗き込むと州に空き缶が打ち上げられていて、蘭々はそれを拾えないもどかしさに目を細めた。
すぐ後ろを車が通りすぎて行く。先日の雪がまだ残っていて足元ではねた。すぐそこを歩く人々の声が遠く、白々しく聞こえた。
欄干に肘をかけて、手のひらに息を吹きかける。
そのまま両手を組んで目を閉じた。
───これは祈りじゃない。
懺悔だ。
「櫻さん……」
ごめんなさい。あたし、嘘吐いてました。
もう、言い訳もできないけど。
ねぇ、櫻さん。
“探しもの”は見つけたの。櫻さんは、あたしが諦めたんだと思ったみたいだけど、違うの。
もう、見つけたの。
櫻さんは、見つけられなかった?
あたしと櫻さんは同じ手がかりを持っていたのに。
史緒さんの近くにいれば、探しものはいつかやってくると。ねぇ、解っていたでしょう? それはいつか史緒さんの下へ戻ると。だから史緒さんを見張ってたんでしょう?
それなのに見つけられなかったの?
櫻さんの、その厳しい瞳でも。
あたしは見つけたよ。
一目で分かったよ。
あたしから本当のことを言うことはできないけど。
櫻さん。
どうしてこの嘘を見抜いてくれなかったの?
どうしてこの嘘を信じたまま、死んでしまったの?
あたしに、この嘘を吐かせたまま。
≪6/7≫
キ/GM/31-40/39