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5. 嘘吐きの独白

 阿達櫻のかたちばかりの葬儀(遺体は揚がってないという)の後、蓮蘭々は斎場の近辺を歩いていた。
 篤志は話しかけられる雰囲気ではなく、司を不慣れな場所へ連れ出すわけにはいかない。史緒は来ていなかった。重苦しい空気のその場にいるのが辛くて、蘭々はひとり外に出た。

(寒い……)
 二月の寒さは容赦なく身体を刺した。下を流れる川の音がいっそう寒さを際だたせている。橋の上から川を覗き込むと州に空き缶が打ち上げられていて、蘭々はそれを拾えないもどかしさに目を細めた。
 すぐ後ろを車が通りすぎて行く。先日の雪がまだ残っていて足元ではねた。すぐそこを歩く人々の声が遠く、白々しく聞こえた。
 欄干に肘をかけて、手のひらに息を吹きかける。
 そのまま両手を組んで目を閉じた。
 ───これは祈りじゃない。
 懺悔だ。

「櫻さん……」



 ごめんなさい。あたし、嘘吐いてました。
 もう、言い訳もできないけど。
 ねぇ、櫻さん。
 “探しもの”は見つけたの。櫻さんは、あたしが諦めたんだと思ったみたいだけど、違うの。
 もう、見つけたの。
 櫻さんは、見つけられなかった?
 あたしと櫻さんは同じ手がかりを持っていたのに。
 史緒さんの近くにいれば、探しものはいつかやってくると。ねぇ、解っていたでしょう? それはいつか史緒さんの下へ戻ると。だから史緒さんを見張ってたんでしょう?
 それなのに見つけられなかったの?
 櫻さんの、その厳しい瞳でも。
 あたしは見つけたよ。
 一目で分かったよ。

 あたしから本当のことを言うことはできないけど。
 櫻さん。
 どうしてこの嘘を見抜いてくれなかったの?

 どうしてこの嘘を信じたまま、死んでしまったの?

 あたしに、この嘘を吐かせたまま。


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