/GM/御園
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 その日、昼下がりの午後。
 御園調査事務所の所長・御園真琴(みそのまこと)はひとり、目の前に積まれた書類に読み通すことに飽いていた。頬杖をつき、右手の指で万年筆を器用に回転させながら瞑目している。
 ひとり、というのは現在の自らの仕事に手を止めているのは真琴だけだという意味であって、室内に誰もいないというわけではない。
「所長」
 大きくは無いが強く高い声を投げられて、真琴は慌てて手元の紙きれに目を向けた。他の誰かに手伝わせようとしたが、生憎、皆出払っていた。
 ───どんな仕事でもそれが組織ならば書類は出回るものだ。1円でも経費を使えば伝票を切らなくてはいけないし、依頼ひとつとっても依頼書、見積書、工程表に進捗報告、結果報告などなどなど。電子化(死語)が進んでいるとは言え、森林資源を侵す紙の束は未だ健在だ。馬鹿らしい、と真琴は思う。本来の仕事を凌駕するデスクワークなど本末転倒ではないか。
「けれど、体系化した組織を稼働させるには必要なものですわ」
 とは、真琴の秘書・まりえの言。
 彼女はこの事務所の主要戦力で、一日の大半を専用のパソコンと向き合っている。今も、真琴の隣のデスクでモニタを睨んでいた。
 彼女は呆れたように言う。
「阿達さんと的場さんも、同じことをなさっているのでしょう? しっかりなさってください」
「あの2人は、こういう仕事が性に合ってるのさ」
 阿達史緒と的場文隆は真琴と同年代で同じような仕事の同じような立場にいる。あの2人は仲間の上に立ち、それらを統率する役割をこなしている。
「僕はまりえがいなかったら何もできないからね」
「光栄ですわ」まりえは美しく微笑う。「けれど、書類の数は減りませんから」
「しかし時間稼ぎにはなる」
「…本日はアポが入ってましたね」
「そう。もう時間だ」
 デスクワークを放棄できる正当な理由ができたわけだ。真琴は嬉々として万年筆を放り出し、両手を上げて伸びをした。

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