キ/GM/御園
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依頼人たちは30分で事務所に戻ってきた。「重要な意味を成す書類」は未だ届いていない。
「あのぅ、やっぱりご存じなんじゃないんですか?」
「何がです?」
真琴は別の書類に目を通していた。
「私たちが捜している子についてです」
「いいえ」
「でも」
真琴は顔を上げた。
「あなた方はその子の名前も住所も電話番号も知らない。あなた方の主観でその子の振る舞いや風貌を語られても、僕はあなた方の視点でしか、その子を視ることしかできない。偶然、同一人物を僕が知っていたとしてもその内容はまったく別のものになると思いませんか。───もし、その子の名前を出されたら、僕はその子を知っていると答えることができる。しかしあなた方の主観に対し安易に同調することは僕は絶対にしない。どんなに似通った人物を知っていたとしても、です。不確定要素を含む調査報告は僕が一番嫌うところです。…ま、例外もありますがね」
つまらなそうに肩をすくませる真琴。けれど強い声での発言に怖じ気づき、依頼人はそれ以上に追求をしなかった。
そのとき、ドアを叩く音が響いた。
来たか、と小さく真琴が呟く。まりえが立ち上がりドアのほうへ歩いた。
依頼人は少しの可能性を棄てきれず期待の眼差しを向ける。
「どうぞ。ようこそいらっしゃいました」
まりえがドアを開けると、そこから現れたのは20歳くらいの青年だった。
「七瀬です。失礼します」
茶封筒を持った青年が入室してくる。
依頼人は期待が外れて明らかに落胆していた。真琴とまりえの会話から重要な人物───もしかしたら被捜索人がやってくるのではないかと思っていたからだ。
その依頼人を面白そうに眺め、真琴は青年───七瀬司に声をかけた。
「やぁ、待ってたよ。わざわざありがとう」
司は白い杖を突いて歩く。彼の障害に気付くまでの間、依頼人はその動作を目で追っていた。
再びドアのほうへ、真琴は声をかけた。
「島田さんも、ありがとう。…どうしたの、入ってよ」
もうひとりいたのか、と、依頼人がドアのほうへ再び振り返る。
そこには利発そうな表情の小さな女の子が立っていた。
「来客中なんじゃないのか?」
と、依頼人のほうを顎で示す。気を遣っているようだが態度はでかい。
真琴はニヤリと笑った。
「君のお客さんだよ」
「…え?」
依頼人に向き直る女の子───島田三佳。
その依頼人2人は大きく目を見開き、大きく息を吸った。そして大きく声をあげる。
「この子だーッ!」
2人して三佳を指さした。
「は?」
訳が判らず三佳は2人からの声と指に狼狽えていた。
三ヶ月間、ひとりの人間を捜し続けた依頼人は感無量であろう。見つかるか判らないモノを探し続けることは想像以上の苦痛と覚悟が伴う。だからこそ、それを見つけたときの感動は、探し続けた者の特権なのだ。
「どういうことなんです?」
司が真琴に訊いた。
「ゆっくり説明するよ。───いやあ、それにしても、依頼人がこんな風に喜ぶ顔を見るのが、この仕事の醍醐味だよね」
満足そうに笑う真琴の後ろからまりえは声をかける。
「演出が過ぎるのは所長の趣味でしょう?」
真琴は振り返って言った。
「そりゃあ、同じ仕事をするなら楽しいほうがいいじゃない」
了
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