/薬姫/弐
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 尊敬するエス博士が亡くなられてもう5年になる。
 今でも無念が私を嘖(さいな)み、激しい後悔に襲われる。倒れてしまいそうな喪失感が今も変わらずにある。度々、ワイに対する復讐心が体内で暴れ出す。それを抑えるのに苦労するほどだ。
 目眩を起こすほど悔しい、憎しみにまかせてワイに殺意を抱くことも少なくはない。復讐の計画を練りながら朝を迎えたことだってあった。
 けれど、結局、私は何もできはしないのだ。
 臆病な私は、我を忘れて衝動的にワイを殺すこともできないのだ。
 そしてそんな私の中途半端な復讐心は、ワイに勘づかれている。
 私は疑われている。
 私の行動を監視している者がいる。それはワイに繋がっている。ワイの命令ひとつで、逆に私が殺されるかもしれない。そんな犬死にをするより先に、私にはやらなければならないことがある。
 だから、こうしてペンを取った。

 いつか誰かに読まれることを願って、この手記を書き始めることにする。
 私の意志を残すために、あわよくば誰かに託すために。
 あとどれだけの時間、書き続けられるのかは判らない。もしかしたら、次の頁には何も書かれていないかもしれない。書けずに私が終わるかもしれない。何も変えられないかもしれない。しかし、この状況だけを残して死んでしまうなんてそんなのはごめんだ!
 どうか、この手記を読んでいるあなたが、私にとって味方となりうる人物だということを願う。

 外へ。
 ここから外へ連れ出して欲しい。
 あれは、ワイがエス博士から奪ったものだ。


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/薬姫/弐