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 同時刻。
 本館4階の音楽室より、降りること2層。今、校内で一番活気があるのはまず間違い無くここであろうと思われる職員室がそこにはある。
 定刻を過ぎても大半の教師たちが帰ろうとしないのは、来週にせまっている期末考査の問題を制作しているためだった。
 この学校では原則として、テスト問題をコンピュータで作成することは禁止している。もう少し厳密に言うと、問題作成に通信機能のある機械を使うことは禁じられているのである。何故なら、職員室にあるパソコンは、生徒に公開されている3階の実習室のコンピュータとサーバを介してリンクしている為だ。一応セキュリティは敷かれているものの、念には念を入れた故の処置であった。それでも職員室内にキーボードを叩く音が絶えないのは、手持ちのワープロ等を駆使する教師たちが多数いるからである。
 そんな中、職員室の片隅でパソコンのディスプレイに向かっている、一人女性の影があった。真剣な、それでいて焦りを感じさせるその眼差しは、何かを探しているようである。
 カタカタと、キーを叩くその指はどこかぎこちない。四十という彼女の年齢を考えればそれも無理がないように思うのだが。
 ディスプレイにはこの学校の2年生の名簿が映しだされている。生徒の名前が出席番号順に並んでいて、それをクリックすると個人情報が引出されるようになっているのだ。
 見落とすのを恐れているのか、それとも単に操作が鈍いのか、画面を流れていく学籍番号と名前の動きはかなり遅かった。彼女は検索という機能があることを知らない。
(・・・ここにも、いないの?)
 指の動きとは裏腹に内心はかなり焦っている。衝動でキーボードを破壊したくなったが、もちろん理性で耐えた。
 いっその事、やめてしまえばいいのかもしれない。宛てもない人探しなんて。
 しかし。
(一言いってやらなきゃ、気が済まないわ)
 椅子に座り直し、お茶を一口。呼吸を整えて、もう一度ディスプレイに向かった。

「あ・・・・」
 慣れてきたのかキーを叩く音が速くなりはじめた頃、指が止まった。
 息を飲む。
 2年3組。・・・間違い無い。
 そこには十年間探してきた人物の名前が、明朝体で小さく書かれている。
 代理の音楽教師という名目でここにいる巳取あかねは、目を見開き、その名前を凝視したまま、かすれた声を喉の奥からしぼりだした。
「──────みつけた・・・」



「みーつけたっ」
 内心の喜びを隠せない声が、校舎の屋上に響く。その声を聞いた者は誰もいなかった。錫杖を片手に黒いマントをなびかせた人影は、まっすぐ音楽室に目を向けている。
 中村結歌の姿を認めると、にっこりと・・・・笑った。

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