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 東京都F区─────。

「あれー。浩太、珍しいじゃん。こんな日に学校来るなんて」
 意外な人物を教室に見付け、大場は驚嘆の声をあげた。
「どーゆう意味だ」
 3年7組の教室の中、中野浩太は刺々しい声を大場へ返した。
 都立三上高校では今日、終業式が行われる。別の言い方をすると一学期最後の日で、更に今の大場の心境的に言うと授業の無い、多くの意味であまり内容のない日なのだ。
「だって浩太、学校の行事ってほとんどサボってるじゃん。イベントや始業式・終業式はおろか入学卒業式も。お前、態度でかくて悪くて、団結力皆無の優等生だからなー」
 ギリギリ二枚目と表現していい顔だが、ぶっちょう面。生活態度は最悪。しかし成績は常に上位。中野浩太はそんな生徒だった。
「…たたみかけるように言うな」
 大場の言に心当たりがあるどころか、そのまま全て事実なので否定する余地もなかった。
 では何故今日、学校に来ているのか。
 ──4日前、電話がかかってきた。
 7月××日。午前十時。東京駅丸の内口集合───。
(かったりー。今日は顔合わせだけだろうし…。かまやしねーだろ)
 そんな風に自分を納得させても、電話の指示通り集合したくないのは、普段は休む日に学校へ来ることの理由にはならない。家で寝ているという選択肢ももちろんあるのだ。が、浩太のなかでそれを深く考える習慣はなかった。
 浩太は机に頭を伏せた。寝不足が祟っているようだ。
「B.R.が騒がれ始めてるぜ」
「……はぁ?」
 大場の発した話題に気合の無い声を返す。
「例のバンドだよ。夏恒例の。オレはそろそろ自然消滅してるんじゃないかとか思うんだけどねぇ」
「…へえ」
「年一しか現れないのに、3年も人気が保てば立派なほうだよ。そろそろ廃れるんじゃないかな」
「今年もB.R.が出てくるか賭ける?」
「んじゃ。出てこないほうに五百円」
 大場は慎重な賭け方をする。一方、浩太は顔を上げたかと思うと、真顔で、
「出てくるほうに五千円」
 と、言った。
「えっ。あ…おいっ!」
 大場が大声を出したのは、浩太の賭け金に驚いたわけではなく、浩太が突然立ち上がり帰り支度を始めたからだ。
「わりぃ、俺帰る」
「来たばっかじゃん」
「気が変わった。それより大場、さっきの賭け、忘れんなよ」
 じゃーな、と言って浩太は朝の教室を飛び出した。
(東京駅に十時…、間に合うか)
 別に、今日自分が行かなくても大場の賭けに負けるわけではないのだ。どうせ明日には合流するつもりだったし。
 そう、ただ。体育館でマイクを通しての教師陣のつまらない話を聞いているよりは、あいつらの音を聞いていたほうがマシだと思ったのだ。

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