キ/BR/02
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7月××(+2)日。
『OKです。お疲れさまでした』
スピーカーから響くみゆきの声に場の空気は緊張を解き、一同は疲労の為か溜め息をついた。
「はー」
「やっぱり、こうなったか」
こうなったか、というのは、すでに時間は夜中の1時を過ぎ、スタジオに泊まり込むことが決定したということである。
「かのんも、はまると長いから」
マイクが会話を拾ったのか、みゆきは体を小さくさせた。
『ごめんなさい』
「褒めてんだよー」
「ま。早く寝て、明日もがんばりましょう」
そんな言葉で締めくくる。さすがに3年目で慣れているのかそれぞれは録音室を引き上げ寝床の準備にかかった。
その日の夜、女性陣の部屋ではこんな話題になっていた。
「えーっ! かのんちゃん、好きな人いるのぉっ?」
大声を出したのは勿論実也子だった。
もう夜遅くて、明日(今日?)もあるのに二人は寝付けず、いくつか言葉を交わしている間に盛り上がっていた。
「実也子さん…っ、声、大きいっ」
眼鏡を外し、いつもと印象が違うみゆきは珍しく声を高めた。
「え、あ…ごめん」
隣の部屋には男連中が寝ているのだ。
実也子とみゆきは頭を寄せ合うかたちで備え付けの布団を敷いて、広い座敷を贅沢に使っていた。
「何? 付き合ってるの?」
「違いますっ! ……片思いです」
「どんな人なの?」
「…どんなって言われても」
「かのんちゃんは、その人のことどう思ってる?」
容赦のない実也子の問答に押し切られ、みゆきは真剣に考え込んでしまう。適当にごまかすことを知らない真面目肌。それを知っている実也子は急かさずに待った。
しばらく悩んでから、みゆきは無意識に声を発した。
「……“昔からの夢を叶える為に努力して、実現させてる人”かな」
私も、その夢を少しだけ手伝わせてもらってるんですよ、と付け足す。
「…」
「あ、ごめんなさいっ。変なこと言って」
「変なことじゃないよっ! すっごく素敵じゃない。かのんちゃんの好きな人かー。会ってみたいな」
「…そうですね。機会があったら、紹介したいです」
「すごく身近な人?」
「ええ。長い付き合いではあります」
「その人の夢って何なの?」
「…ごめんなさい、秘密です」
申し訳なさが混じった笑みのみゆきを見て、実也子は微笑ましく思いながらも頭の片隅で、中野浩太に合掌していた。
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