キ/BR/06
≪12/21≫
スタッフ五人を前にして、感動しているのは浩太たちも同じだった。
自分たちだけで、『B.R.』のCDが作られているとは勿論思っていなかったが、こうして製作スタッフとして関わる人達と会うことで実感が伴う。三年間、一緒に仕事をしてきた仲間たちが、はじめて結集したのだ。感動を覚えるのは当然だろう。
「あ、あの…っ」
実也子だ。
「ジャケットの写真って、いつもすごく綺麗なあの風景写真の?
あなたが撮ってるんですか?」
「そーやっ」
「うわー、私、あれ、好きなんですよぉーっ。嬉しーっ」
身を乗り出して新見の手を掴みぶんぶんと上下に振る。握手をしたいらしいが、気が昂ぶっていて何がなんだかわからない。しかし、実也子のそのテンションに新見もうまくのっていた。
「テレビCMって、女の子が路上で踊ってるやつですよね…?」
と、祐輔が言う。
「そう。僕が撮った」
須佐が答える。
「あれって、BGM無しで無音ですよね」
「そうそうーっ。突然、音が消えてハッとさせられるやつ」
圭ものってきた。
「CDのCMでは珍しいですよね。あれも須佐さんのアイディアなんですか?」
「まあ確かに無音なのは演出だけど。でも実際問題として、毎回CMを撮ってる時期は、君らのレコーディングがまだ始まっていないんだ。だから『B.R.』の曲は使えないんだよね」
苦笑しながら須佐は肩をすくめた。
しばし歓談。
『B.R.』のPR商戦は本当に一般的なものだ。
リリース日の半月前には店頭にポスターが貼られ、テレビではCMが流れ始める。CMは過去三回に渡り、ストーリー形式になっており、CMファンの間では好評だった。一見、何のCMか分からない映像で、最後にアルバムタイトルと『B.R.』という文字が出るだけ。ずっと無音であることも、人々の注意を引きつけるのに一役かっていた。ポスターも同じイメージである。
一方、発売されたCDのジャケットはCMに比べるとかなり抽象的で、風景写真にデジタル処理を施してあるものだ。とくにこれは知己が気に入っていた。
「────で、だ」
盛り上がっている中で、安納が口を挟んだ。
「八木くんには、ライターとして、今回の企画に加わってもらう」
「よろしく」
と、挨拶。
「は?」
訳が分からず呟いたのは浩太だ。
同じく圭も首をかしげる。
「今回の企画、ってなに?」
「あー、君達五人には言ってなかった」
と、申し訳ないと思ってない表情で安納。
「二週間後の記者会見と同時に、『B.R.』のファーストアルバムを発売する」
「えーっ!」
「聞いてませんよ、社長」
これも、驚いているのは浩太たち五人だけで、目の前の六人、そして叶みゆきは平然と聞いていた。すでに知らされていたのだ。
「だって、あと二週間で何やれって言うの?
さらにアルバムってどういうこと」
「アルバムと言っても、ミニアルバムだな。今までシングルで発表してきたものと、新曲を一曲入れる。だから君達にはすぐにでもレコーディングに入ってもらいたい」
さすが、と言うか。安納が浩太たち五人を二週間も遊ばせておくはずがなかった。
「このアルバムは、『B.R.』の正体をバラすのが目的なので、ジャケットにも色々と企画をつける。詳細は未決定だがメンバーのプロフィールや対談などだ。その為に八木くんを呼んだ」
『B.R.』プロジェクト。
企画責任者。安納鼎、叶みゆき。
ミュージシャン。小林圭、中野浩太、片桐実也子、山田祐輔、長壁知己。
スタッフ。大塚スグル、新見賢三、桂川清花、須佐巽、一村草介、そして八木尋人。
合計十三名のプロジェクトがまた始まろうとしている。
しかし、これで全員ではないことを知っているのは、安納鼎、叶みゆき、中野浩太の三名だけだった。
≪12/21≫
キ/BR/06