キ/BR/06
≪17/21≫
今日の仕事場所はnoa音楽企画の会議室だった。
日程調整と指揮は叶みゆきの仕事。今日、集合したのはプロジェクトの演奏者五人と八木尋人だった。別の仕事があるのか、みゆきはここには来ない予定だ。
「じゃあ、さっき説明した通り、CDジャケットに全員のプロフィール載せるから一人ずつ個人面談な」
広い会議室に六人。八木の声は意外なほどよく響いた。
「名前呼ばれたら、こっちの部屋に入って」
と、室内扉で区切られている別室へ向かおうとした八木に、実也子が手を挙げて質問した。
「なんで、わざわざ別の部屋でやるの?」
「一つ一つの受け答えに外から茶々を入れられないように、だ」
簡潔に回答が帰ってきた。要するに、邪魔をするなと言いたいのだろう。
「まず。名前」
「知ってるじゃん、そんなの」
「形式だ。答えて」
「小林圭」
「年齢は?」
「十五歳」
「出身地」
「名古屋。…現在住のときも出身地って言うのか?」
「言う。間違ってない。次、担当楽器」
「声」
「……。尊敬する音楽アーティスト、いるか?」
「堀外タカオと山村シンジ」
「…世代、違うだろ」
「俺、それ聴いて育ったから。親父の影響」
「じゃあ、最近の歌手では?」
「尊敬はしないけど、Little
BACHはよく聴く。各パート巧いってわけじゃないけど曲は俺好み。あとはLOVE
PHYLACTERYの八十年代初期風。それと矢野美樹の声は好き」
「えーと、『B.R.』を始める前の、圭の音学歴なんてある?」
「特になし」
「自分を『B.R.』に導いたものは何だと思う?」
「レコード屋の父と、オペラファンの母」
「最後に、これからの抱負」
「ずっと、歌ってるだろうなー」
*
「名前は?」
「山田祐輔」
「年齢」
「二十四です」
「出身地は?」
「横浜ですが」
「担当楽器」
「キーボード及びピアノ。鍵盤楽器全般」
「尊敬するアーティストは?」
「特にいません」
「…。一人も?」
「どうしても挙げろというなら、一人だけ」
「誰?」
「東京ミュー・フィルのビオラでセカンドの人です」
「………?
…次の質問。今までの音学歴は?」
「音楽院を出たっていうのは音学歴になりますか?
あとは地元でピアノ教室開いてるというくらいです」
「自分と『B.R.』を出会わせたものは何だと思う?」
「友人です。彼に呼び出されたとき、Kanonの曲とであったので」
「これからの抱負を」
「なるようになります」
*
「まず、名前」
「はいっ。片桐実也子でっす」
「年齢は?」
「…それを訊くか。二十一だよ」
「出身地」
「群馬県」
「バンドでの担当楽器は?」
「ベース。…使ってる楽器はコントラバスだけど」
「尊敬するアーティストは?」
「RIZの加賀見康男!
…あ、もう亡くなったんだけど。でもあの人はかっこいいよ、ホントに」
「RIZ…って、昔いたジャズバンドだっけ?」
「知ってるのっ?
なんだ八木さんもー、早く言ってよー。そう、あの人のベース聴いて、私もこの楽器始めたんだ」
「他には?」
「………。……前田公昭」
「じゃ、次の質問。今までの音学歴は?」
「ありません」
「自分と『B.R.』を出会わせたものは何だと思う?」
「RIZ、かな。やっぱり」
「これからの抱負を」
「やれるとところまで、やるよ」
*
「じゃ、名前」
「長壁知己」
「年齢は?」
「三十四歳」
「出身地」
「新潟」
「バンドでの担当楽器は?」
「ドラム」
「尊敬するアーティストっている?」
「尊敬…っていうのは、いない、かな」
「じゃあ、最近よく聴く音楽は?」
「ビル・アルゲリッチはよく聴く。サーボ・バナルとか?
あとTNMとOMO。当時は全く聴かなかったけど、最近聴くようになった」
「あと…、長壁さんも、音楽歴ないの?」
「も、って…まさか実也子がそう答えた?」
「うん。違うの?」
「あ、いや。…俺は昔、東京でバンドやってた」
「え。プロで?」
「一応」
「へえ。バンド名は?」
「秘密」
「…また秘密か。ま、いいか。次、自分と『B.R.』を出会わせたものは何だと思う?」
「昔やってた、バンドだな。やっぱり」
「これからの抱負は?」
「気の向くまま。俺はそういう性格」
*
「次。まず、名前」
「中野浩太。…なんでわざわざ」
「形式だよ。…次の質問な。年齢は?」
「十八」
「出身地」
「東京」
「『B.R.』での担当楽器は?」
「ギター」
「尊敬するアーティストは?」
「ジミー・カート。あと意外なところで連香織」
「自分から意外とか言うなよ」
「だって、クラシックのギタリストだぜー?
…それから、バンドマンならどんなに遅くても一度は彼らへ帰ると言われるビートルズ」
「なるほど。『B.R.』始める前の音学歴は?」
「俺の?」
「他に誰かいるか」
「えーと、中学二年から友達とバンドやってて、高校入ってからは助っ人として色んなバンドに出入りしてたこと……。これって音楽歴か?」
「勿論。次、自分を『B.R.』に導いたものは何だと思う?」
「…んーと。…けっこー音楽に飽きてたときに、Kanonの曲を聴いたこと、かな」
「最後に何か一言」
「何かって?」
「CD買ってくれた人に対して、とか」
「『今、俺の前に居るのは、俺の正体をバラした本人だ』、とか」
「手厳しいな」
「いいんだよ。どうでも。俺達はもう、『B.R.』の行方を決めてるんだから」
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