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 今日の仕事場所はnoa音楽企画の会議室だった。
 日程調整と指揮は叶みゆきの仕事。今日、集合したのはプロジェクトの演奏者五人と八木尋人だった。別の仕事があるのか、みゆきはここには来ない予定だ。
「じゃあ、さっき説明した通り、CDジャケットに全員のプロフィール載せるから一人ずつ個人面談な」
 広い会議室に六人。八木の声は意外なほどよく響いた。
「名前呼ばれたら、こっちの部屋に入って」
 と、室内扉で区切られている別室へ向かおうとした八木に、実也子が手を挙げて質問した。
「なんで、わざわざ別の部屋でやるの?」
「一つ一つの受け答えに外から茶々を入れられないように、だ」
 簡潔に回答が帰ってきた。要するに、邪魔をするなと言いたいのだろう。



「まず。名前」
「知ってるじゃん、そんなの」
「形式だ。答えて」
「小林圭」
「年齢は?」
「十五歳」
「出身地」
「名古屋。…現在住のときも出身地って言うのか?」
「言う。間違ってない。次、担当楽器」
「声」
「……。尊敬する音楽アーティスト、いるか?」
「堀外タカオと山村シンジ」
「…世代、違うだろ」
「俺、それ聴いて育ったから。親父の影響」
「じゃあ、最近の歌手では?」
「尊敬はしないけど、Little BACHはよく聴く。各パート巧いってわけじゃないけど曲は俺好み。あとはLOVE PHYLACTERYの八十年代初期風。それと矢野美樹の声は好き」
「えーと、『B.R.』を始める前の、圭の音学歴なんてある?」
「特になし」
「自分を『B.R.』に導いたものは何だと思う?」
「レコード屋の父と、オペラファンの母」
「最後に、これからの抱負」
「ずっと、歌ってるだろうなー」





「名前は?」
「山田祐輔」
「年齢」
「二十四です」
「出身地は?」
「横浜ですが」
「担当楽器」
「キーボード及びピアノ。鍵盤楽器全般」
「尊敬するアーティストは?」
「特にいません」
「…。一人も?」
「どうしても挙げろというなら、一人だけ」
「誰?」
「東京ミュー・フィルのビオラでセカンドの人です」
「………? …次の質問。今までの音学歴は?」
「音楽院を出たっていうのは音学歴になりますか? あとは地元でピアノ教室開いてるというくらいです」
「自分と『B.R.』を出会わせたものは何だと思う?」
「友人です。彼に呼び出されたとき、Kanonの曲とであったので」
「これからの抱負を」
「なるようになります」






「まず、名前」
「はいっ。片桐実也子でっす」
「年齢は?」
「…それを訊くか。二十一だよ」
「出身地」
「群馬県」
「バンドでの担当楽器は?」
「ベース。…使ってる楽器はコントラバスだけど」
「尊敬するアーティストは?」
「RIZの加賀見康男! …あ、もう亡くなったんだけど。でもあの人はかっこいいよ、ホントに」
「RIZ…って、昔いたジャズバンドだっけ?」
「知ってるのっ? なんだ八木さんもー、早く言ってよー。そう、あの人のベース聴いて、私もこの楽器始めたんだ」
「他には?」
「………。……前田公昭」
「じゃ、次の質問。今までの音学歴は?」
「ありません」
「自分と『B.R.』を出会わせたものは何だと思う?」
「RIZ、かな。やっぱり」
「これからの抱負を」
「やれるとところまで、やるよ」





「じゃ、名前」
「長壁知己」
「年齢は?」
「三十四歳」
「出身地」
「新潟」
「バンドでの担当楽器は?」
「ドラム」
「尊敬するアーティストっている?」
「尊敬…っていうのは、いない、かな」
「じゃあ、最近よく聴く音楽は?」
「ビル・アルゲリッチはよく聴く。サーボ・バナルとか? あとTNMとOMO。当時は全く聴かなかったけど、最近聴くようになった」
「あと…、長壁さんも、音楽歴ないの?」
「も、って…まさか実也子がそう答えた?」
「うん。違うの?」
「あ、いや。…俺は昔、東京でバンドやってた」
「え。プロで?」
「一応」
「へえ。バンド名は?」
「秘密」
「…また秘密か。ま、いいか。次、自分と『B.R.』を出会わせたものは何だと思う?」
「昔やってた、バンドだな。やっぱり」
「これからの抱負は?」
「気の向くまま。俺はそういう性格」





「次。まず、名前」
「中野浩太。…なんでわざわざ」
「形式だよ。…次の質問な。年齢は?」
「十八」
「出身地」
「東京」
「『B.R.』での担当楽器は?」
「ギター」
「尊敬するアーティストは?」
「ジミー・カート。あと意外なところで連香織」
「自分から意外とか言うなよ」
「だって、クラシックのギタリストだぜー? …それから、バンドマンならどんなに遅くても一度は彼らへ帰ると言われるビートルズ」
「なるほど。『B.R.』始める前の音学歴は?」
「俺の?」
「他に誰かいるか」
「えーと、中学二年から友達とバンドやってて、高校入ってからは助っ人として色んなバンドに出入りしてたこと……。これって音楽歴か?」
「勿論。次、自分を『B.R.』に導いたものは何だと思う?」
「…んーと。…けっこー音楽に飽きてたときに、Kanonの曲を聴いたこと、かな」
「最後に何か一言」
「何かって?」
「CD買ってくれた人に対して、とか」
「『今、俺の前に居るのは、俺の正体をバラした本人だ』、とか」
「手厳しいな」
「いいんだよ。どうでも。俺達はもう、『B.R.』の行方を決めてるんだから」

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