キ/GM/01-10/03
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歩道を大股で歩く祥子は、追ってくる健太郎に気づいていたが足を止めなかった。
「祥子っ!」
呼び止める声も無視。今はまだ、先程の史緒の態度を怒っていたいから。
すれ違う人影は少ない。もともと派手な通りでもないし、大きい店もないのだ。ただ気持ち良いほどに整然と並んだ街路樹だけは、祥子は気に入っていた。
目的地に到達する前に、健太郎の手が祥子の肩を捕まえた。
「待てってば、祥子っ」
「うるさいわねっ。祥子祥子って馴々しいのよ!」
手を払い振り返る。たった十数日の付き合いの、しかも年下の人間に呼び付けにされたくはない。しかしなんとこの木崎健太郎という人物は、1日でメンバー全員の名前を覚え、次の日には呼び付けにするという度胸ある偉業をこなしていた。本人は気にもしていないが。
「じゃあ、三高」
「それもだめっ!」
健太郎の想像以上に、厳しい声が返る。
しかし次に発せられた祥子の言葉は、もう少しで聞き取れないほど、小さなものだった。
「史緒と同じこと言わせないで」
(史緒と同じこと・・・?)
健太郎が知るわけもないが、先程の会話と同様のものを、過去、祥子と史緒は交わしていた。それは二人が出会って間もない頃のことだ。その時のことを思い出し、地団駄を踏むような思いにかられた。
思わず大声を出しそうになるのを押さえつつ、祥子はそのまま目的地である『月曜館』へと足を進める。もちろん健太郎もその後に続いた。
「いらっしゃい、祥子さん。木崎くん。珍しい組み合わせですね」
ドアを開ける時に鳴る鈴の音と同時に、マスターが顔をあげた。ここに初めて来たのは司との待ち合わせの時だったが、今ではマスターとも打ちとけ常連になっている。
「勝手についてこられただけです。・・・・そういえばあんた、どうしてついてきたの?」
祥子はマスターの前でも不機嫌さを隠さない。裏表がない、とまでは言わないだろうが、基本的に正直な人間なのだ。
「聞きたいことがあってさ」
祥子の悪口にもすでに慣れていた健太郎はそんな風に言って、先に店の奥に進み、ボックスに腰を下ろした。
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