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 なんだかよくわからないうちに香港に連れていかれた。
 植民地や返還の意味もわからないまま正装させられて、沢山の人がいる広場へ連れて行かれた。
 まず、様々な人種がそこに集まっていることに驚いた。そして本当にこういう生活階級がいるのだと驚いた。パーティは立食形式で、料理の乗せられたテーブルの間を、シャンパングラスを持ち着飾った人達が行き交う。所々で交わされる挨拶や管楽器の生演奏が耳をいっぱいにした。
 史緒と篤志は別行動ということで、三佳は司に着いて歩く。その途中、司は数人に声を掛けられては親しそうに挨拶を交わした。その挨拶はほとんど英語であり、たまに三佳の知らない言語もあった。とにかく顔見知りが多いようだ。
 その中の一人。
「三佳。彼女が蘭だよ」
 蓮蘭々。史緒の友人であり、司の恩人であり、篤志のことが好きな奇特な人物だという。そしてこのパーティの主催者、蓮瑛林の13人いる子供達の末娘。
 彼女はおだんご頭に赤い刺繍の入った膝丈のドレスを着ていて、にっこり笑うと行儀良くお辞儀した。
「はじめましてっ、蘭です。どうぞよろしくおねがいしますっ」
 挨拶した言葉は日本語であり、底なしに明るい声だった。
「島田…三佳です」
 その明るさに面食らった。
「お噂は伺ってます。三佳さんって、史緒さんと暮らしてるんでしょ? うらやましーッ、あたし、今度、遊びに行きますから!」
「蘭、史緒と篤志には会った?」
 と、司が尋ねた。
「はい! また後で合流する約束なんです」
 と、嬉々として答える。どうやら篤志のことが好きというのは本当のようだ。
 その蘭が、少しだけ声を抑えて司に言った。
「阿達のおじさまと和くん、もちろん父さまが招待してましたけど、喪中のため≠チていうお返事があったみたいなんです。ごめんなさい、あたし、よく考えずに招待状を送ってしまったけど、ご迷惑でした?」
「いや。僕らは気にしてないよ」
「良かったぁ。あたし、今日こそ、父さまに篤志さんを紹介したいと思ってたんです! 司さんも、父さまに会ってやってくださいね。兄さまや姉さまも楽しみにしてたみたいです。三佳さんも、あたしの家族と会ってくださったら嬉しいです」
「流花さんと晋一さん、来てるの?」
「晋一兄さまは居ますよ。たぶん、挨拶回りしてるでしょうから、今は忙しいかもです。流花ちゃんは今日も仕事ですって! 今は東欧を飛び回ってるって! こんな日くらい帰ってきてもいいのにぃ」
 ぷん、と蘭は素直に怒った表情を見せる。表情をくるくる変える蘭が、史緒の友人というのはやっぱり不思議な気がした。
 司がこちらを向いて言った。
「晋一さんは蓮家の長男なんだ。今、36歳かな。この家の跡取り。流花さんは長女で29歳。流花さんは僕の先生でもあるんだ。厳しい人で、昔はよく泣かされたものだよ」
 と、司は到底想像できないようなことを言った。

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