キ/GM/31-40/31
≪9/11≫
誰かに呼ばれた。
「───…」
鳥肌が立った。その声を耳にしたときに。
聞いたことが無いような、太く低い声。大きな声ではないのに、腹の底に響く。
振り向けなかった。どっちにしろ見られないのはわかってる、でも意識している漠然としたものに背を向けているときの緊張には耐えられない、だから見られなくても振り返るのだ。
でもこのときは振り向けなかった。
声だけで、この肌に感じるその存在感。それが僕の名を口にした。
寒くもないのに、喉が震え上がった。
「司」
低い声は、さらにゆっくりと言葉にする。一音ずつの切り替わりが遅い。つかさ。その3文字の発音だけで2秒は掛かった。こんなにゆっくり喋る人は初めてだ。
名乗られなくてもわかってしまった。(どうしてわかったんだろう?)はじめて会ったのに。
蓮瑛琳だ。
だから尋ねなかった。
「おいで。散歩に行こう」
5秒かけて言う。
今度の声はさっきに比べて柔らかい。漠然としたプレッシャーは消えていた。
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