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▲2.櫻
史緒が怯えているものの正体は何となく解ってきた。
史緒は部屋に閉じ篭もり廊下に出るのもためらう。外に連れ出すときは、玄関を出てしまえば楽なのだが、やはり廊下にでるまでが一苦労だった。
「何をそんなに怖がってるの?」
そう訊いても、史緒は固く目をつむり頭を横に振るだけだ。
史緒は何か恐いものがあり、そのせいで部屋に引き篭もっている。いつも緊張していて挙動不審で、絶え間なく神経を削っているように見えた。それを解消してあげられれば史緒も学校へ通うのだろうけど。
ある日のこと。
ドンッ、と廊下で史緒とぶつかった。
「…え? 史緒? ごめん、大丈夫?」
史緒が走っていたのでかなり勢いがあり、体格差でもちろん史緒がよろける。その身体を支えつつ史緒の顔を覗き込むと、
「───……っ」
何かに怯えた瞳と真っ直ぐ目が合った。「史緒?」
「…」
和成を見つめたまま訴えるように口を開く、それは声にならない。史緒はそれを伝えられないもどかしさに一瞬くやしそうな顔をして、それを諦めた。
「史緒っ!」
和成から離れて、2階へと駆けていった。
(史緒?)
遠くでドアが閉まる音を聞いた。
和成が視線を戻すと、そこに櫻がいた。
「───…」
「何か言いたそうだな」
見透かすような瞳に見上げられ、和成はたじろいだ。実際、櫻は他人を冷ややかに観察しながらも鋭い活眼がそこにはある。
「事情がわかんねぇから面白くねぇだろ?」
訊いたら答えてやるよ、という誘いが見えて和成は不愉快だったがそれは顔に出さなかった。
「史緒は、櫻を嫌ってるよね」
「あっはは、その台詞でおまえの程度が知れるよ。咲子の紹介っていうからもう少し手応えあるかと思ったけど、どうして低レベルだな」
薄笑いを浮かべ、史緒がいる2階へ軽蔑するような視線を送った。
「嫌うって感情は呆れるほど幼稚だよ。排他的で非生産、史緒はまさにそれだ。せめて憎しみから復讐くらいしてもらいたいな」
「復讐…?」
そこでまた、櫻は笑う。
「俺も史緒のこと“嫌い”なんだ。見るとムカつくから、できればそのまま引き篭もっててほしいよ」
「一体、何したんだ」
「人聞き悪りぃな。何もしてねーよ」
肩をすくめて喉の奥で笑った。
「あいつには、な」
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