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▲4.司
 七瀬司もかなり問題ありそうな子供だった。
(まったく、おじさんは次から次へと無理難題ふっかけるんだから)
 何も会社の問題までこっちに振ることないのに───まさかそれを口にできるはずもなく。
 病院内で叫ぶ暴れるの問題児だと聞いていたのに、和成が迎えに行ったとき、司はベッドの上で大人しく佇んでいた。

「おとうさん、何したの…?」
 司を連れ帰った日の夜、史緒が泣きそうな声で言った。隣部屋の住人になった司には聞こえない声で。
「おじさんは何もしてないよ」
「でも、おとうさんの会社でのことなんでしょ?」
「史緒」
「あの子、頭に包帯を巻いてた。ひどい怪我なの?」
「……怪我したのは頭じゃない、目だよ。見えなくなったらしい」
「ひどい…」
 このときから史緒は父親の会社に嫌悪感を持つようになった。善くない傾向だ。宥めようとしたが、一度導き出した答えを覆させるのは容易ではない。
「史緒も櫻も好きじゃない」
 と、司がこぼしたことがある。
 櫻はともかく史緒は司をほとんど無視していたのでこれはとばっちりだろう。
 櫻と司の間で何度か不穏なやりとりがあったようだ。しかし一月も経つ頃、司はここでの生活に、戸惑いながらも慣れてきた様子だった。

 そして全く関係ないけど同じ頃、史緒は何故かよく居眠りをするようになった。
 流石に自室の外でということはなかったが(櫻がいるので)、勉強中や食事中にまで、うとうとすることがあった。
 そっと声をかけるとすぐにハッとして、何でもないと和成に笑いかける。
 眠気を我慢できなかったのか、ベッドの上で横になっているときもあった。そのとき、史緒の傍らにはネコが、まるで史緒を守るかのように座っていた。その光景が少し微笑ましかった。
 ベッドの端に座って、和成は史緒の頭を撫でる。起きる気配はない。その傍らのネコを撫でると、ネコはくすぐったそうに擦り寄ってきた。
(そういえば最近、夜中に叫ばなくなったな)
 和成がここへ来た頃は恒例だった真夜中の史緒の悲鳴。ここ数日ぷつりと無くなっていた。
(前に比べれば笑うことも増えたし)
(俺やネコがいることで安定してるなら、いい傾向かな)
 史緒は微かな寝息を立てて昼寝をしていた。

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