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▲7.白い罠
 白い、病室の中で。
「何か企んでるだろ」
「すごい! どうしてわかったのぉ? 政徳クン」
「そりゃあ、長い付き合いだからな」
「あたしね、陰謀してるの。それを抱えたまま死ぬわ。それって面白い。残された人達が、あたしの罠にはまるのよ。あたしは見届けることができないけど、あたしの分身がちゃんと、それを収めてくれる」
「君は昔からイタズラ好きだったな、和代によく怒られていた」
「政徳クンはいつも笑って許してくれてたよね。和代ちゃんに甘やかしすぎって言われて」
「分身というのは和代のことか?」
「ぶぶー。はずれ」
「じゃあ…」
「ヒミツよ」
「…罠にはめられるのは、もっとずっと、先にしてもらいたいな」
「ごめんね」
「咲子」
「ごめんね。───…ねぇ」
「ん?」
「どうしてあたしと結婚してくれたの?」
「…」
「パパの会社との閨閥だなんて言わないでね。パパの会社は政徳クンの会社とは比べようもないほど小さいもの」
「そうでもない」
「ある。政徳クンにプロポーズされたって言ったら、パパ、恐れ多い、断れって言ったのよ? 失礼な話だけど」
「ははは」
「…でもパパが心配してたこと、今なら分かるの。あたし、政徳クンにとって良いお嫁さんじゃなかったと思うわ。お仕事の同伴もできなかったし、お帰りなさいもお疲れ様も言えなかった。仕事が好きな政徳クンが好きよ? でもあたしは、足手まといにしかならないみたい」
「そうでもない」
「どうしてあたしと結婚してくれたの?」
「…そうだな。君を愛していた」
「ありがとう。あたしも。好きよ、愛してるわ。───最後のおねがい。指輪をちょうだい? 政徳クンが14年間つけていたやつ。土の下まで持っていきたいの」
「…」
「おねがい」
「それは」
「おねがい」
「……酷いな。僕には何を残してくれるんだ?」
「子供達がいるわ、3人も」
「咲子───?」
「政徳クンの指輪はあたしと一緒に眠るけど、あたしの指輪、隠したわ。タイムカプセルみたいに、ずっと後になって政徳クンのところへ行くから、忘れないで。楽しみにしててね」

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