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▲9.篤志
咲子の葬儀の日、葬儀場の入り口のテントの下でマキを手伝い弔問客の対応に右往左往しているときのことだった。
少し離れた場所から和成のほうを見ているひとりの青年がいた。
背が高く長い髪を束ねた青年は喪服を着ており弔問客のひとりだと判る。和成と目が合うと青年は近寄ってきて、和成の目の前に立つ。
「あんたが、一条さん?」
と名指しすると、青年はまるで値踏みするように和成を一通り眺めた。
「…どちらさまですか」
不躾な態度に気を悪くした和成だが、弔問客の大半は阿達政徳の会社関係だ。こちらが失礼な態度を取るわけにはいかない。
「あんたはもう手を引いていい」
「───…?」
意味がわからず和成が眉をひそめると、青年は口端を引いて愛想笑いを見せた。
「親戚の関谷篤志です。よろしく」
握手を求められたので和成は手を出した。が。
どうやら関谷篤志は自分のことをあまり良く思ってないようだ、と思った。
(初対面なのに)
握手を済ませると関谷篤志は記帳した。
勿論、「関谷篤志」と。
関谷篤志が親戚というのは嘘じゃないらしい。阿達政徳が認めたからだ。
「と言っても、あの夫婦に子供がいるとは今まで知らなかったよ」との言。
その後、阿達政徳は関谷篤志の身辺を調べさせた。身元を疑ったわけじゃない、阿達家に出入りしていいかと問い合わせてきた篤志の経歴を知るためだ。
その報告書は和成も目を通している。
「なかなか優秀な人間のようだ。関谷も鼻が高いだろう」
「関谷?」
「篤志の父親は私の従弟だ。少々変わった男でね、子供が欲しいというのが口癖だった」
「昔から付き合いがあったんですか?」
「いや、ほとんど無い。…学生の頃、私の友人と関谷が付き合い始めて、その頃少し話をしたくらいだ」
「おじさんの友人?」
「その報告書にも載ってる。今川和代…結婚して関谷和代か。咲子の親友でもある」
そこで沈黙があった。亡くなったばかりの妻の名を出すのは思いの外、堪えたのかもしれない。
阿達政徳の許可が降りて、関谷篤志は阿達家に出入りするようになった。
これが予想外の台風の目で、櫻が音を上げるまで櫻に構ったり(語弊有り)、引き篭もりの史緒を強引に連れ回したりと、いろいろと賑やかになっているらしい。
と、後になって司から聞いた。
この頃の和成は大学の卒業を控え何かと忙しかったのであまり家にはいなかったのだ。
初めて篤志にあったときの「手を引いていい」発言を問いただすことも忘れてしまっていた。
あるとき司が言った。
「篤志と櫻って、似てない?」
「はぁ!?」
即答するならば「全然似てない」と和成は答えただろう。
背丈は同じくらいだが、櫻は病的に痩せているので頑丈そうな篤志と似ているとはかなり言い辛い。面立ちはというと、篤志は長髪で櫻は眼鏡をかけているので印象は全く違う。それ以前に、司が外見を判断するわけない。
ならば内面的観点だとすると、
「全然似てない…と思う」
結局、同じ答えになった。
「うん、そう返されるだろうなとは思った」
「司はどういうところがそう思うわけ?」
「…具体的に挙げられるほどまとまってないんだけど」
と、ばつが悪そうに前置きしてから、
「不気味なくらい他人のことをよく見てる」それから「多分、同じものだ」と、付け足した。
「気が利くってこと?」
「それって、善い意味っぽいよね」
和成は吹き出した。
「善い意味じゃないんだ?」
「…うん。いや、気が利くと言えばそれはそうなんだけど、でもそれは結果であって……」
そこで司は言葉に詰まってしまう。
「ごめん、やっぱりまとまらないや」
と、苦笑した。
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