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 生きることは簡単だった。進むべき道は目の前にあったから。
 やわらかな空気の中、遙か地平線に続く道。どこまで続くか判らないそれは期待と不安を与える。
 でも、この道がどうやって終わるのか知っていた。
 それだけは、この道を歩き始めたときから知っていた。


 ときどき振り返る。
 そこには今まで歩いてきた一本道がずっと遠くまで伸びている。
 雑草だらけだったり、
 拾いきれないゴミが落ちていたり、
 捨てたものがまだそこにあったり、
 泥にまみれた消えない雨の跡、
 いつまでも見ていたかった美しい景色。
(この道をあるいてきた)
 すべてを見てきたし、すべてを置いてきた。
 その、達成感と悲壮感と焦燥が入り混じる感情に少しだけ足を休めて、少しだけ泣くのだった。
 もう戻らない道にさよならをする。もう出会えない季節を振り返らない。
 ほら、またすぐに前から優しい風が吹く。そして歩き始める。
 この道の途中、立ち止まることはできない。
 現在の自分の為には生きられないから。
 過去の自分と、未来の自分のためにしか、現在は無いから。
 過去の自分の悲しみが少しでも解かせるように。未来の自分が自由に生きられるように。
 ここに他人はいない。たった独りの世界の中で、自分の為だけに生きる。



 でも外に出れば、彼女には好きな他人が3人いた。

 北田千晴。桐生院由眞。そして阿達史緒。



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