キ/GM/31-40/36
≪2/7≫
生きることは簡単だった。進むべき道は目の前にあったから。
やわらかな空気の中、遙か地平線に続く道。どこまで続くか判らないそれは期待と不安を与える。
でも、この道がどうやって終わるのか知っていた。
それだけは、この道を歩き始めたときから知っていた。
ときどき振り返る。
そこには今まで歩いてきた一本道がずっと遠くまで伸びている。
雑草だらけだったり、
拾いきれないゴミが落ちていたり、
捨てたものがまだそこにあったり、
泥にまみれた消えない雨の跡、
いつまでも見ていたかった美しい景色。
(この道をあるいてきた)
すべてを見てきたし、すべてを置いてきた。
その、達成感と悲壮感と焦燥が入り混じる感情に少しだけ足を休めて、少しだけ泣くのだった。
もう戻らない道にさよならをする。もう出会えない季節を振り返らない。
ほら、またすぐに前から優しい風が吹く。そして歩き始める。
この道の途中、立ち止まることはできない。
現在の自分の為には生きられないから。
過去の自分と、未来の自分のためにしか、現在は無いから。
過去の自分の悲しみが少しでも解かせるように。未来の自分が自由に生きられるように。
ここに他人はいない。たった独りの世界の中で、自分の為だけに生きる。
でも外に出れば、彼女には好きな他人が3人いた。
北田千晴。桐生院由眞。そして阿達史緒。
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