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14.12/24(金)17時

 藤子は、たそがれ時のなかにいた。
 黄昏(たそがれ)は誰(た)そ彼(かれ)、つまり「お前はだれか」と尋ねるような晩、夕闇の薄暗さをいう。
 昼を終えて拡散しきった大気中のチリが、今度はゆっくりと街に降ってくる。まるで雪のように。
 そのチリの遙か天上、群青色の空のなかを、最後の光へ向かって雲が蠢いていく。雲だけじゃない、風も、大気すら。大きな流れが天にあり、ただ置いていかれるだけの、圧倒されるだけの自分という個。夕暮れに飲み込まれてしまいそうな小さな自分。
 藤子はただ眺めていた。摩天楼に沈む夕日を。
(きれい…)
 この世界を見るだけでも、生きる価値がある。
 そして目指した径の終わり。そこに辿り着くことができた。
 概ね満足している。上々な人生だったと言えるのではないか。
 ───少しだけ、別離を惜しむ気持ちがあった。
 どうしてだろう、ずっと独りで歩いてきたはずなのに。
「さよなら」
 藤子は柔らかく微笑んだ。
 もう、落日を数えることは無い。


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