キ/GM/41-50/44
≪2/20≫
15.12/25(土)07時
史緒は、かわたれ時のなかにいた。
彼誰(かわたれ)とは彼(か)は誰(だれ)、つまり「君はだれか」と尋ねるような朝、暁の薄暗さをいう。
夜を越えて、一度リセットされた大気は痛いほど澄んでいる。その清涼さを浸食するように、街が起きて、人が動き出す。
空が明るくなっていく。
ビル群の稜線が浮かびあがる景色のなかで、史緒は晨風(しんぷう)に吹かれていた。
長い髪が絶えずはためき、そのたびに視界を隠す。けれどそれは、目の前の現実を隠してはくれなかった。
史緒は理由も判らず、何度も、確認するようにその肌に触れた。けれども残酷な冷たさは疑う余地も無い。朝日の温かさが史緒の頬に触れても、横たわる身体に熱が戻ることは無かった。
どれくらい時間が経っただろう。
(…立たなきゃ)
けれど、コンクリートに付いた両膝は少しも動かない。
立ち上がることがこんなに辛いなんて。
史緒は何かに憑かれたように、ふらり立ち上がった。
まるでひとり荒野に置き去りにされたような、強い風の中で。
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