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 さらさらと。






 さらさらと花が降る。




 風にほどけていく。
 空にとけていく。


 限りなく白に似た薄紅。
 視界を霞ませる花の散る嵐(らん)。


 咲き誇る桜(くれない)。
 こぼれるような連翹(き)と雪柳(しろ)。


 灼灼たる花嵐の辻。
 あたたかい吹雪に、うもれてしまうような。

 さらわれてしまうような。





 さら
   さら
      さら







 遠くへ、力いっぱい手を振った。早く。
 ここへ来て。桜がきれいだよ。


 声がきこえて、名前を呼ばれる。
 花のなかに影が浮かんで。
 少年がかけてくる。
 笑顔でかけてくる。



 触れるまであと少し。
 ふと。
 なにか聞こえたように、少年は足を止めた。

 振り返るより先に、その表情が。

 歪む。

 唇がことばを象る。


「……さ、くら」


 それは花の名ではなく。





 少年はつまづいたように。
 前のめりに、不自然な体勢で。

 倒れた。




 ───それは不思議な光景だった。
 少年が2人に分かれた。

 倒れた少年が立っていた場所に、少年は立っていた。




 倒れた少年の背中は塗り潰したように黒く。
 緑の褥に赤い液体が流れ落ちていく。
 その背中が、一度だけ、踊るように跳ねた。


(……とおるくん)
 わけもわからず手を伸ばす。
 けれど。

 掴まれた。

 もうひとりの、立っている少年の顔が。
 ひきつるように歪む。
「───…ッ!」

 心臓を掴まれた。

 歪んでいるのに。

 それは笑顔だった。




さら
 さら
   さら





 倒れた少年は赤く花に埋もれ、
 佇む少年は花のなかで嘲笑う。



 私は、
 叫んだらしい。


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