キ/GM/41-50/45
≪1/10≫
さらさらと。
さらさらと花が降る。
風にほどけていく。
空にとけていく。
限りなく白に似た薄紅。
視界を霞ませる花の散る嵐(らん)。
咲き誇る桜(くれない)。
こぼれるような連翹(き)と雪柳(しろ)。
灼灼たる花嵐の辻。
あたたかい吹雪に、うもれてしまうような。
さらわれてしまうような。
さら
さら
さら
遠くへ、力いっぱい手を振った。早く。
ここへ来て。桜がきれいだよ。
声がきこえて、名前を呼ばれる。
花のなかに影が浮かんで。
少年がかけてくる。
笑顔でかけてくる。
触れるまであと少し。
ふと。
なにか聞こえたように、少年は足を止めた。
振り返るより先に、その表情が。
歪む。
唇がことばを象る。
「……さ、くら」
それは花の名ではなく。
少年はつまづいたように。
前のめりに、不自然な体勢で。
倒れた。
───それは不思議な光景だった。
少年が2人に分かれた。
倒れた少年が立っていた場所に、少年は立っていた。
倒れた少年の背中は塗り潰したように黒く。
緑の褥に赤い液体が流れ落ちていく。
その背中が、一度だけ、踊るように跳ねた。
(……とおるくん)
わけもわからず手を伸ばす。
けれど。
掴まれた。
もうひとりの、立っている少年の顔が。
ひきつるように歪む。
「───…ッ!」
心臓を掴まれた。
歪んでいるのに。
それは笑顔だった。
さら
さら
さら
倒れた少年は赤く花に埋もれ、
佇む少年は花のなかで嘲笑う。
私は、
叫んだらしい。
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