キ/海還日/一章
≪1-00≫
一章
〇〇.
「困ったひとだよねぇ」
それはおばあちゃんの口癖。
「本当に困ったひと…」
のんびりと喋る横顔は穏やかに微笑う。
膝掛けの色は朱。暖炉の前で安楽椅子に座り、しわしわの手であたしの頭を撫でる。
曇る窓に目を向けて、遠い遠い国の、困ったひとを想っているのだろう。
「あなたのパパはわたしのお腹から産まれたのよ」
──うん
「あのひとは、それが羨ましかったんだ」
ほんと、困ったひと。
今日も、おばあちゃんは窓の外を眺めて微笑う。
──淋しいの? おばあちゃん
「淋しくなんかないよ。リンがいるからね」
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キ/海還日/一章