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3.キラーの恋
やっと見つけた
刺すような光とともに、その人は現れた。
* * *
藤子はショッピングが好きだ。もっと正確に言うと服が好きなのだ。自分に似合う服を選ぶのは手間だけど出会えたときは声をあげてしまうほど嬉しい。さらにその服を着て、頭からつま先まで身につけるものを服に合わせて、見立てどおりキメられたときは、なにか勝負に勝ったような達成感がある。出掛けることも楽しくなる。だから服に合わせて髪もいじるし、コスメも遊ぶし、アクセサリーもつける。
「似合ってないわよ、派手なだけじゃない」と、いつもの毒舌で由眞は言う。「派手なのがあたしの信条なの!」まぁ、約40歳差がある由眞と服の趣味が合うとは思ってないが。
藤子はサイフが許す限り高額な買い物もするけどカードは使わない。いつもすべて現金で支払う。カードを持たない理由は、藤子が携帯電話のメモリ機能を使わない理由と同じだ。足跡を残さないためである。同じ理由で、電車の定期券を持たない。切符は時間差をつけて買う習慣がついている。発券時間から追跡されないためだ。そしてできるだけ有人の改札を目立たないように通る。それらの行動は日常のことだった。
その日も藤子は駅に着いてすぐ切符を買った。その後、いったん駅を出てファーストフードで朝食を済ませ、約1時間後に改札をくぐった。街に出て、馴染みの店をいくつか回ったあとのことだった。
突然、腕を捕まれた。
人目の多い昼間の街中でのことだ。藤子は最も少ない動作で身構える。が、それは解いた。(あ、好みの顔)と思ったからではなく、相手は明らかに素人だったからだ。
大学生くらいだろうか、男は息を削っていた。
「やっと見つけた」
「───」
その一言に、藤子は弾かれたように目を見開く。予測もしなかった台詞に表情を整えることさえ忘れた。
「おまえだ、間違いない」
「…え?」
「なんでやったッ?」
「は? なに?」
「なんで伯父さんをっ」
男は言葉に詰まる。藤子はわけがわからないまま、目の前の男を観察していた。気を取り直したのか男は乱暴に藤子の手を取り、ずんずんと歩き出した。
「行くぞ」
「ちょっと待ってよ。どこへ? デートの誘いにしては強引すぎない?」
「ふざけるなっ、警察に決まってるだろ」
「あんた補導員? あたしは学生じゃないよ、連れて行かれる理由はない!」
「しらばっくれるな、この人殺し!!」
そのとき藤子は意図せず笑ってしまった。胸があたたかくなった、その幸福感に。
(とうとうきた)
そう思って胸が弾む。切ないほどの喜びに少しだけ涙が滲む。
まっすぐに向けられた敵意に期待した。男の目が表す剥き出しの憎しみが快感でさえあった。今すぐ抱きつきたかった。(やっときてくれた)長く待っていたものがやってきてくれたこと、憎しみを携えて探し続けてくれたことが何よりも嬉しい。
けれど。
(警察、ね)
復讐者と認めるには少々資格が足りないようだ。
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