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03.12/23(木)15時
史緒が図書館に入ると、カウンターにはいつもどおり谷口葉子が座っていた。こちらに気づくといつもどおり視線だけで挨拶をする。視線を離される前に史緒はカウンターに近づいた。
「あぁ、國枝さん? 来たよ。3日前かな」
藤子について訊くと、あっさりと回答があった。
昨夜、由眞から藤子を捜すオニに任命させられて、1日目。まず、藤子の携帯電話に掛けてみたがRBT(=呼出音)が鳴り続けるだけだった。しかしこれは今に始まったことではない。仕事で動いているときや、それから北田と会っているときは藤子は絶対に電話に出ない。
次に藤子がよく顔を出しているショップやクラブ、リテさんや青嵐のところも一通り回ってきた。しかしそれだけ訊いて回っても目撃証言は無し。史緒は段々心配になってきていた。
(最初からこっちに来ればよかった)
3日前──葉子が答えた日付は、史緒が最後に会った日と同じだ。藤子の足跡をたどるために史緒は時間を訊いた。
「昼過ぎだったかなぁ。阿達さんのほうにも行ったんじゃないの? 帰り際にそんなことを言ってたよ」
ということは、ここへ寄った帰りにA.Co.に足を運んだことになる。
(あの日───…?)
3日前のあの日。
来るなと言っておいた事務所に藤子は押しかけた。なんの用かと尋ねれば「史緒の顔を見に」と笑う。へらへらと笑って、本心を見せない、なにかをごまかすように。
「藤子、なんの用だったんですか?」
「なにって、本を返しに来て、それから毎度の仕事を頼みにきて」
「その他にどこか行くとか、なにか言ってませんでした?」
「なにも?」
(あの日)
(藤子の様子、おかしかった…?)
手を振って走り去った。
──だいじょうぶだよね?
(なにが?)
──らしくないこと、しないよね?
(らしくないことってなに?)
──守らなきゃいけないもの、ちゃんとわかってるよね?
(わかってる。なんで、そんなこと訊くの?)
史緒は途端に不安が広がるのを感じた。3日前、様子がおかしかった藤子。その藤子に、今は連絡が取れない。
(藤子?)
「なに、連絡取れないわけ?」
葉子の問いかけにはっと我に返る。
「えっ? …ええ、まぁ」
「じゃあ、手を引いたほうがいいんじゃない?」
「どうして?」
史緒の返答を聞いて、葉子は眉を顰めた。
「どうして…って。なにかあった可能性はかなり高いと思うけど」
「───ッ」
漠然としていた不安を容赦なく突き刺された。思わず顔が歪む。そしてそれを葉子に見られた。
「あのさぁ」
「…はい」
「私は國枝さんのことを快くは思ってないわけ。彼女になにかあったとしても、私は関わりたくないな」
文隆や真琴と同じことを言う。それは藤子の職業を知っている人間なら普通の反応なのかもしれない。
「私が國枝さんを邪険に扱うのは、ヤツ自身を嫌いなわけじゃない。下手に情が移らないようにするためだ。…青臭いことを言うようだが、情が移ってしまったら、相手になにかあったとき自分が痛い思いをする。そうならない為に危険を伴う人間には近づかない。それは当然の防御本能、処世術だろう? 阿達さんは國枝さんに対してそういう危機感が足りないと思うよ」
「…藤子に、…危険が伴うと?」
「あたりまえじゃないか」
「!」
「あいつはいつ死んでもおかしくない。そんなことも判らないで、國枝さんと付き合ってたの?」
胸を突かれた。判っていたはずのことを、他人から言われただけのことなのに。
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