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07.12/23(木)23時
「…わかった。ともかく史緒も、今夜は帰ったほうがいい」
文隆は電話の向こうへ宥めるように言う。いつになく狼狽し、要領を得ない喋り方をした史緒は文隆の言葉を聞きそうにない。「三佳ちゃんが心配するだろ」と付け加えたらやっと大人しくなった。
通話を切ってから溜息を吐く。すると室内から声がかかった。
「史緒、なんだって?」
真琴はソファの上で足を伸ばして、電話が終わるのを待っていた。
「國枝藤子の不在は事件性があるらしい。史緒はえらく慌ててる」
「……へぇ」
「読めていた展開ではあるか」
「薄情だなぁ」
「薄情で結構、俺ははじめから協力する気なんてない」
乱暴に椅子の上に電話を投げる文隆を横目で見て、真琴は肩をすくめて見せた。もちろん、真琴だって國枝藤子に関わりたくないのは同じだ。
「媼も、有事を悟ってるようだったよ」
「いや、確信はしてないだろ。こうなると判ってて史緒に捜させているなら、それは人格を疑うくらい趣味が悪いぞ?」
史緒に國枝の屍を探せと言っているようなものだ。
大体、桐生院由眞が國枝を見つけて来いというのは不自然すぎた。史緒はそれに気付かなかったのだろうか。桐生院が國枝と最後に連絡を取ったのは「昨夜」だと言った。たかだか24時間連絡が取れなかったくらいで文隆たちを集めた不安要素が桐生院にはあったのだ。
「媼が何かしらの不安要素を持っていたのは間違いないね。史緒に依頼したのは…、そうだな、事件性が無いほうの可能性に縋って、杞憂であることを確認したかったんじゃない?」
「それは想像し難いな。あのばあさんが、そこまで俺らに情があるとは思えない」
「“俺ら”じゃない、國枝に、だよ」
「ばあさんからしたら同じ駒だろうが」
「違う。媼にとって、國枝と僕らは違うんだ」
「……?」
視線を向けた文隆に、真琴は笑ってごまかした。「それより文隆」
「今更、國枝の身に何か起きても、それに驚く僕らじゃないだろう」
「そうだな。俺らはな」
「そういう意味では、無事でいて欲しいよ」
國枝藤子のことなど放っておけばいい。
ただ、放っておけない人間もいるということだ。
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