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17.12/25(土)10時
「じゃ、葉子さん、ありがとうございました。またよろしくお願いします」
史緒はお礼を述べて図書館を後にした。玄関を出て外の階段を足早に駆け下りながら、携帯電話を取り出しアドレス帳を呼び出す。
「…あ、どうも阿達です、お世話になっております。お休みのところ申し訳ありません。先ほど、問題のメールを転送したんですけど…はい、そうです。…ありがとう、お願いします」
颯爽と歩きながら会話を続ける。
「急いでいるので時間制限させてください。24時間以内に、結果は電話でいただけますか? 夜遅くても構いませんから。…それはもちろん、無理を言ってるのは私のほうですもの、言い値で結構です。支払いは私個人で振り込みます、請求書はいつも通りに。…ええ、よろしくお願いします」
電話を切って、ポケットへしまいこむ。バッテリが少なくなっているので、夜までには充電しなければならないだろう。些細なことだがこれは重要なライフラインだ、切らすわけにはいかない。そんなことを心配しながら、史緒は駅前を通り過ぎた。
駅前では、5人ほどの募金活動員が声を張り上げていた。クリスマスの余韻が残る浮かれた街中で、それは異色な光景だった。多くの通行人は興ざめしたように視線を残したり、募金箱に小銭を落としたりしていた。
40代くらいの男女が必死とも思える様子で募金を訴えている。聞いていると、歳末助け合いではなく、個人の募金活動のようだった。史緒はサイフを取り出すのも面倒なので足早にその場を通り過ぎた。その際、なおざりにチラシを受け取る。軽く目を通してポケットへ。個人で、難病の息子の手術代を集めているとか。焼け石に水ではないか。通りすがりの素人目にもそう思える。しかしそれ以上考えるくらいの興味は、今の史緒にはなかった。
「少し休む」と言って事務所を出た後、史緒は小走りで自分の部屋へ戻った。出掛ける支度を整え、三佳への書き置きを残す。───躊躇いはなかった。
裏口から家を出て、まず最初にしたことは現金を落ろしたこと。文隆のところは銀行系のつながりがある。この先カードを使って万が一にも追跡されないようにだ。
それから図書館司書・葉子のところ。藤子が最後に依頼したという仕事、その内容を聞くためである。寄る場所は他にもあったが、葉子のところへ最初に訪れたのは、今朝の事件が伝わる前に情報をもらいたかったからだ。
その次は、さきほど電話した相手、電話屋。こちらは青嵐つながりで紹介してもらった人物で、某電話会社に勤めている。電話番号やメールアドレスから契約者を割り出してくれるのだ。送信元が偽装されている場合でもフォローアップしてくれるので、こちらの手間が省ける。この手の電話屋の多くは金銭目的なので多少高くつくが、携帯電話がここまで普及している現代において重宝さで右に出るものはない。仕事においては繋がりを断つことができない相手だった。
この電話屋の調査結果は重要な道筋になる。今朝早く、藤子の携帯に、藤子の居場所を通知してきた人間を突き止めなければならない。
自分が追われる立場になったのは解っていた。
真琴、文隆、篤志、A.CO.の事務所の番号、それと非通知からも電話があった。もちろん取らなかった。
それから警察も動き始めている。110、119への通報者は現場に残る義務がある。史緒は通報はしたものの現場を離れて逃げた。警察は通報者を捜しているだろう。案の定、木戸と計良から電話があった。史緒はそれを無視している。追うプロを相手にどこまで逃げ切れるだろうか。
Wホテルに本名で泊まったのはまずかった。フロントには散々手間をかけさせたので顔も名前も覚えられているだろう。それにタクシー運転手も証言するはずだ。突拍子もないことだが、現場から逃げた史緒が藤子殺しの容疑者に仕立て上げられる可能性もなきにしもあらず。
それでも、まだ捕まるわけにはいかない。
史緒は自然と早足になって、次の目的地へと急いだ。
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