キ/GM/41-50/44
≪9/20≫
22.12/25(土)20時
篤志が事務所へ戻ると司と三佳が待っていた。
「おかえり」
司はいつもどおりだが、
「史緒はっ!?」
三佳は椅子から飛び降りて篤志に詰め寄った。その様子から、三佳も藤子の訃報を聞いたことがわかる。司のことだからきっとうまく伝えてくれたのだろう。他殺、復讐のあたりは伏せてあるはずだ。
「史緒の足取りは掴めてない」
「そんな…」
「でも、他に色々とわかったこともある」
篤志はソファに倒れこむように座り、ひとつ息を吐いた。今まで知らなかったいろいろなことを聞いて、精神的に疲れていた。
「…客観的に見れば、俺たちはかなりとんとん拍子でやってきてるよな」
史緒の話じゃないのか、と三佳が首を傾げる。
「なんの話?」
「A.CO.(おれたち)の話」
短く答えると、篤志は改めて事務所内を見回した。今は3人しかいないが普段は7人集まることもある部屋だ。そう狭くはない。以前に比べれば物も増えてきている。あたりまえだ、それだけの年月をここで過ごしてきた。
「そろそろ満2年。小さな躓きはいつでもあったけど、それはなにをするにしても、どこにでもあることだ。こんな若造ばかりの集まりで、今までよくやってきたと思うよ、実際」
最初の半年、今よりさらに平均年齢が低かったA.CO.で、かつかつながらも仕事が途切れなかった。それは桐生院由眞が仲介に立ち、仕事を回してくれていたからだ。それと組合に入ったことも強い。しかし本当なら、TIAに入る資格はかなり厳しい。A.CO.がその末席に着けたのは桐生院のコネがあったからだ。
ただ、それらだけが運良くやってこられた理由じゃない。
A.CO.を維持するために、史緒は篤志の想像以上に動いていた。
谷口葉子を足がかりに、國枝藤子、青嵐という情報屋、他にも葉子が言うには新聞社や金融、果てには警察まで。「阿達さんの情報網は推測もできないな。私は裏のことには手を出さないから」
史緒はワンマンだ。ひとりで抱えすぎている。おそらく、A.CO.が利用する情報網や組織間の繋がり、その大半は史緒しか知らない。
裏との繋がりが欲しいから藤子と付き合い始めたのか。藤子と付き合い始めたから裏との繋がりができたのか。
そんなことは本人しか知り得ないことだ。しかし、史緒が裏との繋がりを隠していた理由は理解できる。犯罪者と付き合うことを、たとえ仕事でも割り切れない潔癖性がA.CO.にはいるからだ。篤志から見ればそれは三佳と祥子だった。そして自分も含めて全員が、殺し屋という職業を容認できないだろう。
「まさか、國枝さんも桐生院さんのところのひとりだったとはね」
さわりだけ説明したあと、司が口を開いた。
「それは俺も驚いた。2年前、史緒は“3人”って言ってたからな。4人目を隠していたのは意図的だろう」
すると三佳が口を挟んだ。
「どうして、史緒は隠してたんだ?」
「國枝さんの仕事を、俺らに知られたくなかったらしい」
「どんな仕事?」
「やばい仕事」
下手に隠すのは逆効果だ。そう答えれば、三佳がこれ以上追求してこないことはわかっていた。
「さぁ、もう、亡くなった人のことを喋るのはやめよう。問題は史緒だ。明日、もう少し回ってみる」
三佳は心配そうに窓の外を見た。
「ちゃんと食べてるかな」
「いっそのこと、無理が祟って倒れてくれたほうが捕まえやすいんじゃない?」
こんなときでもの司の毒吐きに三佳と篤志は笑った。
そして篤志は隠れて安堵の溜め息を吐く。
なんの仕事? と訊かれたら、篤志は嘘を吐かなければならなかった。
≪9/20≫
キ/GM/41-50/44