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28.12/27(月)19時

 風向きに注意して窓の外に煙を吐き出した。白い煙はすぐに闇に溶けて跡形も残らない。
 篤志は久しぶりの煙草の軽い目眩を楽しんでいた。もちろん、自分の部屋で。はとこがアレなので煙草の消費量はかなり減ったが、元々篤志は結構な喫煙家だった。実家にいた頃は「庭で吸え」とよく追い出されたものだ(未成年だったけど)。
 篤志にとって煙草による最大の恩恵は、思考を切り替えられることだった。精神を落ち着かせ、集中する。外界を意に掛けず、意識の渦に浸かる。10代の頃はどうしてもそういう時間が必要だった。そう、「自分」のことを考えるために。
(あいつは今頃、どこでなにしてるだろう)
 嫌煙権を頑なに主張するはとこは行方をくらませたまままだ見つかっていない。手を尽くしてもその足跡を追うことができなかった。あとは待つしかない。彼女の良識に期待するしかなかった。
 篤志は視線を微かに動かした。
 窓枠の影が映る机の上に指輪が置かれている。
 装飾はない、シルバーのシンプルなものだ。しかし月明かりを反射する径(けい)が、まるで宝石(いし)のように光っていた。
(…いいかげん、手放したいところだな)
 少しずつではあるがこれを持つことが重くなってきている。このままというわけには、やはりいかないのだろう。
 ゆっくりと、煙を上空へ吐き出す。
(さてどうしましょうか、───咲子さん)


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