キ/GM/41-50/45
≪4/10≫
1−3
三佳はベッドの中で、遠くドアの音を聞いた。控えめな足音が三佳の部屋の前を通過して行く。おそらく、隣りの部屋の住人は、しばらく帰ってこない。昨夜もそうだった。
(ぜんぜん、大丈夫じゃないじゃないか!)
歯ぎしりの後、三佳は勢いよく毛布を剥いで起きあがる。
寒さなど感じる余裕は無かった。暗闇の中で手を伸ばし、枕元の携帯電話をむしり取る。適当にキーを押すと点灯した液晶画面に目が眩んだ。そのせいで手こずりながらもメモリロックを解除、気が昇ぶっているせいか指が震えてしまう。
目当ての番号が発着履歴に無いことは判っていた。身近な人間だが電話をかけるような相手ではないからだ。アドレス帳からその番号を取り出すと力任せに発信ボタンを押した。
長いコールが続く。時間帯を考えれば当然寝ているはずだ。しかし三佳に遠慮は無い。早く出ろ、と心の中で文句を言った。
「どうしたッ!?」
コールが途切れると同時に緊張した声が返った。時間が時間なので有事と思ったのだろう。そんな誤解を与えたことに謝罪する気はさらさら無い。言うことはひとつ。
「篤志! なんとかしろ!」
八つ当たりだ。
怒鳴りつつも声が震えてしまった。三佳が呼吸を整えるあいだ、電話の向こうは沈黙していた。
「…わかった」
「まだなにも言ってない!」
「わかったって。史緒だろ? 朝になったら呼んでやるから」
「誰を?」
「ともかく、夜が明けてからだ。おまえもちゃんと寝ろよ? 強情な同居人に付き合うことはない」
しかし遅かった。
その日の朝食の席で、史緒はとうとう倒れた。
≪4/10≫
キ/GM/41-50/45