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■02
「嘘は吐かないでいましょう」
 そう言い出したのは母・和代だ。
 そのとき、篤志は車椅子での生活を強いられていた。背中に傷を負い、立ち上がることさえできなかった。やっとリハビリを始められるかというときのことだ、入院していた病院の中庭に、父と母そして篤志の3人はいた。父が篤志の車椅子を押し、先を歩く母がゆっくりと振り返る。
「そういうことにしておいたほうが、篤志も気が楽でしょう?」
 青空を背景に母は穏やかに笑った。
「誰かに訊かれたら、正直に言いましょう。嘘は吐かないでいましょう。私たち家族、3人の約束」
 父・高雄と篤志は視線を合わせる。和代の意図が判らなかった。
「私はね、嘘を気づかれてしまうことに怯える生活なんてごめんなの。嘘を拠り所にするのも嫌」
 和代は篤志の車椅子の前で膝を付き、その手を取った。
「嘘なんか吐かなくても、あなたを愛せるわ。本当よ」
 篤志はその手を握り返して微笑う。
「ありがとう、お母さん」
 その背後で高雄が息にのせて笑う。
「俺らも、咲子さんのイタズラ好きが伝染したのかな」
「ふふ、そうね」
「誰が、俺ら3人のイタズラに最初に気付くだろう」
「それは決まってる」
 と、篤志が即答する。和代と高雄は興味深そうに篤志の顔を覗き込んだ。篤志はふたりに笑ってみせる。
「櫻だ。間違いないよ」


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