キ/GM/41-50/49[1]
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空が青い。
ノエルは店の外を見て泣きそうになる。ざわつく胸を押さえた。
(ハル…)
どうしよう。ハルに会わなきゃいけない。早く。もし外にいたら、たぶんまた悲しんでいる。空を見上げて、なにかを捜すように。
(どこに行っちゃったの?)
今朝、起きるとハルがいなかった。ノエルは慌てて部屋中を捜して、ホテル中を捜して、フロントに駆け込んで、ハルが早くに出掛けたことを聞いた。
(もしかして誰かに、会いに行った、のかな)
せっかく日本に来たのだから、会いたい人がいるなら会えたほうがいい。それはやっぱりそう思うけど。
(突然いなくなるなんてヤだよ〜)
離れていくことは無いと約束してくれた。だけどやっぱり不安で、ノエルは仕事をすっぽかしてホテルから飛び出した。
*
『それって、櫻さんのことじゃないですか?』
アイスティーのストローから唇を離したあと、蘭は首を傾げた。
暑い中を急いでやってきて、店内の涼しさでクールダウン。そして、状況説明を聞いているあいだに運ばれてきた、氷が浮かぶグラスの冷たさで、生き返る心地を味わったあとのことだ。
その声量は大きくも小さくもない、反射的に返した何気ない問いかけだったけれど。
『ハルのこと知ってるの!?』
テーブルの正面からノエルが乗り出してきた。
「は? なに? 今、櫻って言った?」
すぐ隣りから健太郎。
「え、…まさか、櫻ぁっ!?」
斜め前、ノエルの隣りから祥子。
それぞれあまりの迫力に、蘭はびっくりして首を縮めた。
「え、あの、だって…」
なにか間違ったことを言ったのかと、自分の発言を振り返る。
『ノエルさんが捜しているのは、ノエルさんと一緒に日本に来たご家族の方で、男の人、髪と瞳は黒で、眼鏡を掛けてて顔立ちは東洋系、20代前半、日本語は喋れる、ですよね』
『うん!』
「で、ケンさんのほうの情報によると、櫻さんはノエルさんに同行していて、3年ぶりに日本に来てるってことでしたよねぇ」
「確証は無いけどな」
むー、と蘭はグラスを持ってストローをくわえ、今一度考え直す。
ノエルはハルという人物を捜しているという。一方、健太郎と祥子は、櫻の連れであるノエルを偶然見かけて、意気投合して、ついでだから人捜しを手伝うつもりらしい。健太郎らしい、と蘭は笑った。
『ねぇ、ノエルさん。ハルさんって、いじわるですよね』
『うん!』
「決まりですねっ」
即答したノエルのあと蘭も真顔で頷く。
「…おい、今のは解ったぞ」
「じゃあ、捜してるハルっていうのは、櫻のことなの?」
「はい」
健太郎と祥子も言葉が通じればすぐに判ったのだろうが、曖昧な意思疎通ではそこまで伝わらなかったらしい。
『え? なに? サクラ? ハル?』
『あたしたち、ハルさんのこと知ってるみたいです』
『んん? …え? ええぇっ? なんだぁ! そうなのぉ?』
ノエルは目を丸くしてそれぞれの顔を見回した。安心しきった様子で声を高くする。
『サクラって知ってるよ、お花の名前だよね。あ、もしかしてそれがハルの本当の名前?』
『ええ』
『わぁ、すごーい、なんか羨ましい。ハルがここでどんな風に過ごしてたかも知ってるんでしょ? ショウコとケンも?』
「え、ううん、私は、知り合いって言っても一度会っただけだし。しかもつい先日」
「俺も。蘭は? 付き合い長いんだろ?」
『ラン?』
『はい。子供の頃からお世話になってました』
『わぁ、いいな!』
と、歓声をあげた後で、ノエルは頬をふくらませた。
『ハルはほんとに、自分のことをなにも話してくれないから』
笑ってはいたけど淋しさも見えて、蘭は励ますように強い声で言う。
『じゃあ、ハルさんを捜しに! ……って言っても、そういえば手がかりは無いんですよね』
しかし、この時期に櫻が顔を出すところなど限られているはずだ。篤志と史緒の前にも姿を現している。次に櫻が取る行動は…。
「あ、ごめん、言い忘れてた。櫻氏なら今日は親父さんの会社にいるらしいよ」
「…え?」
「事務所に連絡したときに司が言ってた。史緒もそっちに行ってるって」
どん、とノエルがテーブルを叩く。
『どこ? 行きたい!』
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